TPP…真の国益とは何か
TPP批判シリーズ…ブルジョワ経済学や「国益」という観点からの批判
真の国益とは何か TPPをめぐる国民的議論を深めるための13の論点(東京大学大学院教授 鈴木宣弘/コーネル大学客員研究員 木下順子
「国益」や、後に出てくる「アジア圏の強化」という言葉は「革命的左翼」の目指す「革命」からは外れるが、右派・民族派から左派リベラルまでには受け入れられる「革命(変革)」に使えるだろう。
この論文は「はじめに」を除いて3章、13項目がある。(項目のマル数字は、私が便宜上つけたもの)
1.問題の構図は国益VS農業保護ではない
①FTAの本質
WTO(世界貿易機関)の「無差別原則」の例外として認められた「差別性」がFTAの本質であり
、「さしあたり、意図的に競争相手を排除できる特質を活かして自国の利益を確保する目的でFTAが利用(p39)」されている。現にNAFTA(北米自由貿易協定)で米国の乳製品はカナダ、メキシコに対しては競争力が高いので乳製品関税をゼロにしているが、米豪FTAでは主要乳製品を例外扱いとして、世界一競争力が高いとされるオーストラリアの乳製品の輸入増加を防いでいるとのことである。
②「例外なし」が優れたFTAだというのは間違い
「世界全体(域外国)の経済厚生を悪化させる性質をもつが、域外国の経済厚生の悪化を最小限にとどめるという観点では、実は、高関税の重要(センシティブ)品目も含めてゼロ関税とするFTAよりも、高関税品目を除外したFTAのほうが優れている可能性がある(p40)」とし、日タイFTA、および日米、日EUのFTAで「例外なし」の場合と、現在高関税である品目を「除外」した場合の、日本の利益の増加と域外国の損失を試算し、「除外」の場合が日本の利益も増え、域外の損失も小さくなることを示している。ただ
「米国やEUのように重要品目の貿易額が大きい国とのFTAの場合、日本が重要品目を除外すると相手国の利益が著しく損ねられる(p41)」ので、合意を得るのは難しいだろうと指摘している。
③農業だけが“障害”なのではない
開放が困難なのは農業だけではなく、金融、医療など労働者の移動を含むサービス部門、繊維、皮革、履物などの軽工業製品も重要品目はある。例えばチリとのFTA交渉は銅版が大きな課題となったし、マレーシアやタイとのFTA交渉でも最後まで難航したのは鉄鋼や自動車だった。日韓FTAが中断しているのも、部品・素材産業分野が深刻な障害となっている。海外展開のある企業は2000社に1社程度であるから
、「一部の輸出産業が主張する目先の利益を『国益』と呼び、TPPに乗り急ぐのは間違っている。(中略)つまり、問題の構図は〈国益VS農業保護〉ではなく、〈輸出産業の利益VS中小企業、金融、医療など、労働者の移動を含むサービス分野、繊維、皮革、履物、銅版、米、乳製品などの重要品目、食料生産崩壊による国家安全保障のリスク、水田のダム機能や生物多様性、国土・地域の荒廃などの損失〉となる。(p42、43)」と結んでいる。
(2章の紹介に続くよ)
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コメント
門外漢の老人にも理解できました。ありがとう。続きよろしく頼みます。
投稿: 神道革新 | 2011年6月27日 (月) 23時44分
神道革新さん、ブログにする原稿の下書きを書く時間があまりないので、のんびりやっていきます。
投稿: あるみさん | 2011年6月29日 (水) 22時12分