TPP反対の大義(続き編)…世界貿易の崩壊と日本の未来
しばらくぶりの「TPP反対の大義」論文紹介…「世界貿易の崩壊と日本の未来 TPP=タイタニックに乗り遅れるのは結構なことだ」(評論家・思想史家 関曠野)である。
まずTPPの「前提」となっている世界の自由貿易…世界貿易についての現状分析からはいる。その前に筆者は
TPP推進論者は何か夢でも見ているのではないか。自由貿易の促進どころではない。リーマンショック以来、世界貿易はどんどん崩壊してきている。p74と述べている。
世界貿易の崩壊の前触れとなったのは、WTOが各国の貿易障壁の全面撤廃を目指したドーハラウンドの完全な挫折である。中国、インドが自国農民を保護するために緊急輸入制限措置を発動する条件を緩和せよと要求したためである。これらの国は厖大な人口を要する貧困層(≒農民)を切り捨て、外国資本の導入によって一部の都市が繁栄するいびつな経済発展を成し遂げてきたわけであるが、これ以上貧農層をおいつめては体制があやうくなるためだと、筆者は分析し、
以後『自由』貿易は一部の国々による二国協定というツギハギ細工のかたちで存続している。WTO自体はすでに死に体である。p75と述べている。WTO世界貿易体制が、FTA体制に移行したのだ。
そのWTOが進めてきたグローバリゼーションは、世界中で地域間、社会階層間の格差を拡大した。階層間の所得格差増大の結果、庶民の所得不足と過剰資金の投機資金化が、リーマンショックを生み出したわけだ。世界貿易は09年度に12%という、第二次世界大戦後最大の縮小を記録した。
そして世界貿易の縮小は止まっていない。貿易による国際的な商品輸送の90%は海運によって行われている。だから、世界貿易の現状を知るにはバルチック海運指数をみればいい。これは鉱石や穀物などをバルクで運ぶ不定期外航貨物船の雇用状況を示すもので、これから数年先の貿易と世界経済の動向を知る上ではもっとも的確で客観的なバロメータである。この指数は08年に90%近く激減し、その後中国の資源買い溜めで一時的に少し回復した後は、深く低迷したままである。p75~6要するに、世界貿易自体が、消費市場の世界的な消滅によって縮小しているのである。
伝統的な交易や貿易の「世界貿易」への変貌過程
ところで「世界貿易」とは何だろう?
人は常識的には『貿易』と聞けば日本がインドに機械を輸出しその見返りにカレー粉の原料を輸入するといった行為を考えるだろう。p76
この貿易は互恵的なものであり、国民経済は自給が原則で、貿易はそれを補完するものにすぎない。こうゆう貿易は徳川の「鎖国」時代にもやっていたものである。
「世界貿易」はこれとは別次元のものである。重商主義時代の「貿易」は略奪が基本であり、産業革命…資本主義では機械が大量生産する製品をさばく外国の市場の確保が問題となり、それが「帝国主義」へと発展してゆく。
そのなかで世界貿易の論理を完成させたのは、20世紀の米国である。厳密に言えば「世界貿易」とは米国が第二次大戦後に世界に強要した通商システムのことであり、米国が軍事的覇権を背景に世界にそれを強要した原因は1930年代の大恐慌にあった、ということができる。だからこのシステムを、伝統的な交易や貿易と混同してはならない。米国は資本主義がもっとも純粋に発展しただけにその矛盾の露呈も明確だった国である。p76~7
米国の資本主義…機械制大工業の発展により、企業会計の中では設備投資に巨額の資金が回されるが、勤労者への給与・賃金に充てられる部分は縮小する。巨額な資金は金融資本からの借り入れによって賄われるが、それらは利子を要求する。アメリカの通貨改革論者エレン・ブラウンの指摘によれば、商品の最終価格の三分の一から二分の一が銀行への利払い分だそうである。
こうして資本主義の順調な発展自体が需要不足、過剰生産、遊休資本の投機資金化、銀行への債務の増大といった問題を生み、そこから恐慌が発生する。
この矛盾を解決するには所得の再分配をやるしかないが、資本主義にそんなメカニズムはない。
だが、需要不足と過剰生産の問題は、貿易の拡大で解決できるのではなかろうか。貿易は資本主義を救う。大恐慌に苦しんだ米国あ貿易を体制の宿命的な矛盾を解決するための系統的な戦略としたとき、世界貿易の論理は完成したのである。p77。
要するに「世界貿易」体制はアメリカが作ったものなのだ。
ドルと金がリンクしていたブレトン=ウッズ体制では、まだ互恵的な商品の交易で国民経済を補完する要素が残っていたのだが、ベトナム戦争で財政赤字と日欧との競争に苦しんだ結果、71年のニクソン声明でこの体制は崩壊し、ドル基軸制・変動相場制に移行すると、米国は貿易赤字を気にする必要はなくなり(ドルを刷ればよいから)米国経済の規律を失わせるものとなった。それが70年代の原油価格の高騰と相まって、米国経済を衰退に向かわせたのである。
グローバリゼーションとは「体制の危機の輸出合戦」である
筆者は
グローバリせージョンは一般に、貿易の徹底的な自由化と拡大により、各国経済の国際的相互依存が深まることとみなされている。この見方は間違いである。p78と説く。貿易が需要不足と過剰生産という資本主義の矛盾を解決できず、80年代に入ると米国企業は需要不足に商品価格の切り下げで対抗しようと、労賃の安い中国に生産拠点を移す。(この流れは90年代から日本でも始まるわけだが…)中国の貿易黒字の大半はこれらの企業の対米輸出にある。他方、輸出でドルを稼いだとしても、それを中国国内に還流させると悪性のインフレーションが起こるため、ドルは中国の内需拡大ではなく、米国債や株式に投資された。貿易黒字国から流入した過剰な資本が、国内産業が衰退したアメリカではマネーゲームの資金になり、米国経済は負債で動けない状態となって、恐慌を発生させたわけである。
それゆえにグローバリゼーションの本質は貿易の拡大ではなくて、ドル基軸体制が可能にした「体制の危機の輸出」である。米国は衰退した資本主義の危機と国家の負債を中国に輸出し、中国は共産党政権の危機を米国に輸出してきた。恐慌によるグローバリゼーションの終焉はいずれ世界的なドル信認の崩壊に行き着き、それにより体制の危機を輸出しあった米中は共倒れになる可能性が大きい。p78
と述べられている。中国はともかく、今進んでいる急速な円高・ドル安はまさにそれだろう。そしてドルが崩壊すれば「世界貿易」は「アメリカの世紀」とともに崩壊すると説く。
もちろん「世界貿易」が崩壊しても、「貿易」そのものがなくなるわけではない。相互通貨での決済やバーターによる貿易も行われ、本来の互恵的な商品の交易としての「貿易」が復活する可能性がある。しかしそのためには、
自給度の高い国民経済があってこそ、貿易は補完的なものでありうる。P79と説く。
自給と聞くと、鎖国を連想する人がいるかもしれない。だが日本でも、自給はそんな昔のことではない。戦前の日本はエネルギーでさえ70%近くを自給していたし、戦後復興期の細々と雑貨を輸出していた当時も自給度は高かった。p79、」だそうだ。
ピーク・オイルに備える文明の転換を“地域”から
筆者は、TPPはドーハラウンドのように挫折する公算が大きいとみている。
TPPに参加しないと日本は国際的に取り残される」と言うが、何から取り残されるのか?「タイタニックに乗り遅れるのは結構なことだ。日本は例えば中韓両国のように、国内市場の狭小さや農民の貧困ゆえにアクロバット的貿易立国をやらざるを得ない国ではない。世界銀行の統計では、日本経済の輸出依存率は16%、貿易がGDPに占める比率は世界170国中164番目である。企業が国内市場だけで商売できるガラパゴスが可能な国は世界でも日本だけである。p79「ガラパゴス」は一般経済誌なんかでは、「世界標準で闘えない」悪いことの見本のように言われているが、見方をかえれば日本経済の強みでもあるわけだ。
そして
「TPPして輸出が頼りの大企業の要求であるが、大企業は稼いだ外貨を溜め込んだり海外で投資したりして、国内の経済循環に貢献していないは国内市場が飽和。p79
と、バッサリである。
そして筆者はピーク・オイルの問題に触れる。
国際エネルギー機関はこの2010年11月に、「世界の原油生産は2006年度にピーク(増産の限界点)を越したと見られる」と発表した。もう経済成長はありえないのだ。(中略)ピークオイルの厳然たる事実は、今世紀はエネルギーと食料の危機の世紀であること、そして人類の未来は長期的には農業中心の地域共同体にあることを示している。p79~80と警告している。文明の転換…エネルギーと食料の自給度を高める政策を、国を挙げて推進する必要があるが
そうした方向転換を、中央の政府には期待しないほうがいい。おそらくそうした転換は地方の、地域の人々の草の根の動きとして始まり、それが自治体を動かし、自治体が国を突き上げるかたちではじまるだろう。そこに日本の未来があることを、私は確信している。p80」と結んでいる。
何やら、東日本大震災と原発事故後の日本の進むべき道を柔らかく示しているようだ。だがこの間の6ヶ月を見ると、そういった議論ができる政治家・政党は中央にも地方にもほとんど居ない…地方自治体をも飛び越して我々が勝手にやる必要があるのだろう。「そこに日本の未来がある。」と…
で、この文章を書いてTVつけて見たら、「中国の女工さんの安い労働力を使って、回転寿司のアナゴが生産され、日本に輸出されている。」ということをバラエティー番組でやっていた…「回転寿司」は保守的な人から言わせれば、「あんなの、寿司じゃねぇ~」というものなのだろうが(実は江戸時代のファーストフードだったという話もある)、回転寿司はもはやファミリーやグループで安く寿司が楽しめる「文化」として定着している。エネルギーはともかく、食料の自給の道は、けわしいなぁ~
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コメント
食料自給率低いと言いますが、実際40%はあるわけで。今の食事が半分になったところで、元々贅沢な食事が少し質素になるだけ。
残飯などの無駄な食材ゴミが大量発生している面も考えれば経済封鎖などのような事になっても、餓死者が出るほど餓えはしないかと。
TPPはまさしく「見えている地雷」ですね。まるで次期ガンダムのように……
日本企業が輸出面で強いのならばともかく、中国企業にあっさり食われたり、産業スパイに技術持っていかれたりと、トロく鈍間な連中ばっかりですからね。
まぁ、一度経済破綻する、というのも手かと思います。日本の硬直化した経済機構は、いっそのこと破綻してでもIMFなどの外圧によるメスで破壊した方が、100年単位で見た場合有意義かもしれません。
実際東京電力は未だに解体されず、日本の産業は電通が牛耳り、政治は官僚によって動かされているようなものですから。
投稿: ROM人 | 2011年9月 8日 (木) 12時16分
一度資本主義経済を破綻させるなら、民主党でない「本当の」左翼に政権を譲渡してはいかがでしょうかそのほうが確実ですよ。
「食材の残り」については、まさにおっしゃる通りで、「残飯」が出ない工夫をすればもっと「自給率」が上がるといわれております。
TPPネタは、まだまだ続きますので、もう少し辛抱してくだされ。
投稿: あるみさん | 2011年9月 8日 (木) 23時29分
壊したいのは日本の社会構造であって資本主義社会じゃないです。
確かに資本主義は限界が見えてきていますが、実際のところそれ以外の共産主義や社会主義は失敗作ですから、選択肢がそれだけしかありません。
というか他国ならまだしも、日本に革新的な社会システムを唄う政治団体なんていません。自己主張の優位性を語るのではなく現体制の批判をして底上げをしようとしている連中か、現実を無視した理想論だけのお花畑の連中だけですし。
少なくとも貴方たち左翼のように「自民がダメ云々じゃなくて、民主党はヤバイ」という意見にたいし「ネトウヨ!自民信者!!」などと言ってました。
貴方の「一度左翼政権に」という言葉は、これと同じ「民主がダメだから、次新しいのでやってみようか」というようにしか聞こえません。
社会改革をするならば、まずは小さい所で実績を上げて、資本主義との優位性を証明するところから始めるべきでしょうよ。
投稿: ROM | 2011年9月10日 (土) 10時36分
左翼に政権を…と書いたのは
>一度経済破綻する という貴方の案を確実に実行してくれるという意味でネタ的に書いたものなんですが…(IMFが介入してくるかどうかは別問題)
ただ、ご指摘のことはほとんど「ごもっとも」としか言いようがない。ただ、欧州左翼のあり方に見習おう(ただし欧州左翼も確実に権力をとったことはない)という動きはあります。
「民主がヤバイぞ…」の中身って何でしたっけ?「日本が韓国(中国)に支配される」とか、仲間うちの論理でしか通用しない「お花畑」ではなかったのでは?ちなみに「尖閣諸島(魚釣台)」で違法行為をした漁船をとっ捕まえたのは民主党政権です。自民党政権時のほうが、上陸した中国人を何のおとがめもなく返したりしておったのですよ。
麻生政権がリーマンショックからいち早く経済を立ち直らせた?数字的にはそうなんでしょうが、そのおこぼれって、我々のところに来ましたっけ?
投稿: あるみさん | 2011年9月10日 (土) 22時34分
>「民主がヤバイぞ…」の中身って何でしたっけ?
少なくとも選挙前で覚えている物だけでも
「子供手当の全額支給は無理、と言うか扶養者控除廃止で実質値上げ」
「高速道慮無料なんて無理」
「仕訳しても金なんて出てこない」
「当然金が足りなくて大増税くるよー。ガソリンは値下げしないし、消費税だって増える」
「基地移設問題は、自民党のが一番まとも。下手に弄っても混乱するだけ」
「外国に媚びる(実際外国在住の在日外国人にも子供手当をばら撒き、朝鮮学校も無性化)」
このくらいは普通に言われてましたよ?
>ちなみに「尖閣諸島(魚釣台)」で違法行為をした漁船をとっ捕まえたのは民主党政権です。
とっつ構えたのは海保。自民民主に関係ない。
>自民党政権時のほうが、上陸した中国人を何のおとがめもなく返したりしておったのですよ。
民主が一瞬でも戦おうとしたことは評価するが、その後の脅しに速攻屈したのは最悪。
これについてはどんぐりの背比べ。
>麻生政権がリーマンショックからいち早く経済を立ち直らせた?
>数字的にはそうなんでしょうが、そのおこぼれって、我々のところに来ましたっけ?
恐慌を立ち直らせただけで何故おこぼれが来るのか意味不明。
立ち直らせただけであって、それ以上の経済成長してないんだから、生活の向上なんてあるわけないでしょう。
投稿: ROM | 2011年9月11日 (日) 09時41分