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ブラック企業 日本を食いつぶす妖怪

 前のエントリーでROM人さんとBMさんとのやりとりが延々と続いていますが、「ブラック企業」の話がでてきたので、ちょうど読んだ本のご紹介・・・
001  「ブラック企業 日本を食いつぶす妖怪」(今野春貴 文春新書)である。今野氏は労働NPO法人POSSEを2006年に立ち上げ、大学生や若手社会人の就職、労働相談等を行ってきた人で、「ブラック企業」のやり方や、それによって潰される若者を多く見てきた。その経験をもとに、ブラック企業の実体と個人としての対応の仕方から、社会問題としてのブラック企業問題の解決を呼びかけ、実践を提案している。

 そもそも「ブラック企業」とは何か…この定義は実はあいまいで、まあ「法律を犯すような悪徳企業」=「ブラック企業」であるなら、もう日本のほとんどの企業が、大なり小なりあてはまるだろう。(放射性物質を大量にばら撒いて、それを「無主物」で除染責任を負わない某電力会社なんかは、その最たる例) 

 筆者はあえて「ブラック企業」の「定義」づけはせず、ただ、大量に新卒正社員を雇うにも関わらず、その育成等を全くしないで、短期間で大量退職に追い込み、残った「精鋭」で企業経営を行おうとする・・・逆に大量退職を見越して、大量採用するわけだが・・・正社員は簡単に解雇することはできないので、無理なノルマ、研修、「採用後の選別」を行い、達成できないと面接指導などの様々なハラスメント等で労働者を疲労困憊させ、欝状態にもっていって「自主退職」させる。このような企業は新興のIT関係、アパレル業界や外食チェーンなどに多く見られ、業績を拡大しているその足元に「使い捨てにされた若者」が沢山いるというわけだ。
 ただ、ハラスメントや「研修」等で労働者を「自主退職」に追い込む方法は昨今に始まったものではなく、90~2000年代の中高年へのリストラにも使われたし、80年代の「国鉄分割民営化」の過程でも行われている。また、筆者は「ブラック企業」のあり方は、「日本型雇用」・・・すなわち労働者への広範な指揮・命令権(長期の単身赴任、サービス残業あたり前)が経営側にある代わりに、労働者は終身雇用、年功序列賃金(さらには企業年金など)の大きな見返りがある・・・の、「いいとこどり」(広範な指揮・命令権のみ)をしたものであるから、あらゆる企業が「ブラック企業」と成り得ると述べている。

 もちろん、このような「ブラック企業」が蔓延したのは「日本型雇用」の行き詰まり、解体であり、非正規雇用で「家計を維持」していかなければならない層が増え、「正社員」に成りたい「代わりの若者」がいくらでも居るという雇用情勢である。この趨勢はバブルがはじけた90年代半ばから始まり、企業はリストラを続け、95年に旧日本経団連が出した報告書に、日本型雇用は「高コスト体質」であるから「長期蓄積能力活用型」「高度専門能力活用型」「雇用柔軟型」の3タイプに分類し、「長期・・・」を減らすとともに後の二者を非正規雇用にしていこうという提言がなされ、徐々に政策化されてきた経緯がある。(ちなみにこのころ「ゆとり教育」という名の「エリートだけ育成する教育」が始まる)
 また、「シューカツ」の影響も大きいと筆者は指摘している。百社ものエントリーシートを書き、自己アピールするものの、不採用(否定)される・・・このようなことが続けば「自分を否定的に見る」⇒相手の不法行為を「自分が悪いから」と思い込んでしまう・・・かくして「ブラック企業」の嫌がらせ、やり方に反抗できず、精神を病んで潰れてしまうということだ。

 この本では、個人で「ブラック企業」と対峙し、闘う方法(労働NPOや地域労組、弁護士に相談する。地域労組に入って交渉する、裁判に持ち込む等)も上げられているが、「ブラック企業」が社会に与えるマイナス・・・若者を育てずつぶす、そのことによる少子化の進行、社会福祉費の増大・・・それによって日本社会が立ち行かなくなっても、彼等は伸ばした業績で海外に脱出するだろう・・・と、社会でブラック企業を無くす取り組みをする必要があると訴える。業務命令の制約・・・「過労死防止基本法」の早期制定、「普通の人が生きていくモデル」の策定・・・教育、医療、住居に関する適切な現物給付の福祉政策で、低賃金でもナショナルミニマムを担保できるようにする。

 若者も「戦略的」に、自分とブラック企業の問題解決を、自分だけの問題にせず、会社全体、他の被害者と連携して問題解決にあたる、そのための地域労組、合同労組、労働NPOを活用するし、労組やNPOもそういった「労使関係」を再構築する。(いわゆる「連合」などの企業別組合は、狭くなった「正社員」の「いいとこどり」だけを目指すから、ダメなのだ)、労働法教育を確立させる・・・政府の「政策」を待っているだけではダメで、そこに労働NPO、地域労組・合同労組、そして左翼の生きる道があるのではないだろうか?

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コメント

解決方法としてはいくつかありますよね。

・ベーシックインカムの導入
 必要最低限の収入は得られるので、無理をして働くことが無くなる。金をどうするかと、勤労意欲が維持できるのかが問題。

・労基の強化
 罰則の強化と、徹底的な取り締まりによってブラックを叩き潰す。欠点としては、ライバル企業を落すための道具として政治的に利用される点。裁判になって時間や費用がかなり浪費される点

・ワークシェアリング
 強制的に仕事を分けることで雇用の拡大。態々ブラックに務める理由を失わせる。オランダでも大成功だし、特に問題はないか?


個人的にはワークシェアリングがいいなぁ。すでにオランダの成功例があるから安心ですし。

投稿: ROM人 | 2013年2月 3日 (日) 10時34分

企業ー労働者の関係ではなくて元請ー下請けー孫請けの流れで言えば、常識価格の半分以下で受注してチャッカリ自社利益をダムに溜め込んでおいて後僅かな残りを流すだけの企業もあります。
それでも目先のカネをとりあえずは回さないとパンクしてしまう事業者はその仕事をやらざるをえない。
そういう仕事はやったら負けなんですが、やむを得ない場合もある。
そんなブラックの仕事はどこもやらなければ存在ができないはずですけどね、なかなかそういうわけにも行きません。

まあ、本文にもあるとおりブラックとそうでない企業の線引きは曖昧でしょう。そういうブラック行為を出来なくするように持って行ければいいんでしょうけどね。

>ROM人さん
それらのことすべて方向性としては賛成ですね。
難題山積でも、方向があるのとないのとでは大違いです。

投稿: BM | 2013年2月 3日 (日) 12時27分

本当に戦うしか活路はありません。
私は、有名なブラック企業「すき家」に、労働組合を立ち上げ、労働闘争している者です。
これからは情報を被害者同士が共有し、社会に既に存在する、例えば厚生労働省であったり連合などを活用してゆく事が必要だと考え、実行しております。もし情報共有し、共闘が出来るかお話し合いさせて頂ければと考えております。

投稿: 金森兼治 | 2013年8月 5日 (月) 12時58分

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