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㈱貧困大国アメリカ

堤未果さんの「㈱貧困大陸アメリカ」(岩波新書、20136月)を読んだ。ルポ「貧困大陸アメリカ」Ⅰ、Ⅱの集大成でもあり、またブッシュ大統領時代のⅠ、ブッシュによる「新自由主義」のゆきすぎを「批判」する形で出てきたオバマ大統領時代の「裏切り」政策を丁寧にルポした前2作とは違い、いかに「多国籍企業」がアメリカ、いや世界政治を(アメリカを通して)を「支配」しているかが書かれた労作である。

 001 本書の半分以上が、主にアグリビジネス展開企業、GM(遺伝子組み換え)作物、それを流通させる流通業界について、いかにアメリカ政府がそれに取り込まれているか、さらには「自由貿易協定」を通して世界中に広まっているかを中心に展開されている。レーガン政権によって独占禁止法規制緩和が成され、その後急速に流通業界では、地域の小売業者から郊外のディスカウントショップまで「垂直統合」した大規模な企業合併が進められた。巨大になった企業は、十分な商品量を確保するため、契約(請負化)で生産者をがんがら締めにしばりつけると同時に、小規模な生産者は巨大企業を通さないと市場に出荷できないため、淘汰されてゆく。帝国主義段階で一旦止まったかのような階層分解が、再び拡がっている。(これが1%と99%に集約されてゆく)

 レーニンは帝国主義論で、金融資本は議員を買収することでその政治への影響力を行使すると説いた。だが「買収」などという生易しいものではない(もちろん昨年の米大統領選挙では、オバマ陣営にもロムニー陣営にも多額の政治献金が「多国籍企業」から出ている。)多国籍企業の役員が、政府の委員会の委員をやり、また自分の企業に戻るということを繰り返したり(回転ドア人事)、企業による選挙公告費の制限は言論の自由に反するという判決が出たり(実質的に企業献金の上限が無くなった)、米国立法交流評議会(ALEC)というNGOに積極的にかかわり(この団体への出資は「献金」ではなく、NGOへの「寄付」として税法上扱われる)、自らの業界に有利は法律を州議会で通す…実際は「モデル法案」を作り、それを州議会の議員が手を加えて、あるいはそのままの文言で州の法律にしてしまう…ことをしたりしている。もちろん議員にたいするロビー活動も活発だし、メディアは全て多国籍企業の広告収入によって「買収」されている。「選挙」は、多国籍企業の利益と民衆の生活の「対立点」を覆い隠し、どうでもいい争点をさも激しく討論するという「政治ショー」「選挙は投資」になってしまった。このような企業と政治の癒着を「コーポラティズム」と呼ぶ。

 多国籍企業に有利な法律や規制緩和が行われれば、当然1%と99%の格差が拡大し、「貧困大陸アメリカ」の状況はますます悪くなる。公的サービスを切り売りし、破産する自治体もでてきた。(破産しかけた自治体の例として、ミシガン州のデトロイト市の事例が挙げられていたが、奇しくもデトロイト市は7月、ついに破産宣告をした)切り売りされた「サービス」もまた、「多国籍企業」の儲けのターゲットである。公立学校は閉鎖され、チャータースクールを運営する会社が進出してくる。チャータースクールは、全ての子どもに教育を受けさせるわけではない。長期的にどんな悪影響が出るか…そんなことよりも、市のバランスシートが数字上良くなって、市債が紙クズにならないことのほうが、多国籍企業そしてその後ろにいる銀行家(金融資本)にとっては、良いことだからだ。

もはやアメリカを動かしているのは「アメリカ人」ではなく「多国籍企業」である。企業が立法府を「買ってしまった」のだ…今、問題となっているTPP交渉も、交渉している相手はアメリカ政府ではなく、得体の知れない何か?かも知れない。(ちなみにTPPで問題となっている点の一つに「特許権」があるが、これはGM作物の流通、販売を自由にし、その特許料をいただくというシロモノである)アメリカを「支配」する多国籍企業には、他国企業も名を連ねている。例えば先の米国立法交流評議会(ALCE)には、日本の武田薬品工業やイギリスの大手製薬会社、グラクソ・スミスクライン社など多岐にわたっている。

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