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目から鱗の「炭水化物が人類を滅ぼす」

 糖尿病の治療は、「カロリー制限」+投薬というのが普通で、これが20世紀の常識 なんだそうだが、最近では「糖質制限療法」というのが注目されている。すなわち、糖質を取るから血糖値が上がって、いろいろ悪さを行うので、糖質を取らなければいいんだということだ。
001 これをさらに「発展」させて、人間にはもともと「糖質(炭水化物)なんかいらないんだ 」と喝破したのが、本書「炭水化物が人類を滅ぼす…糖質制限からみた生命の科学」(夏井睦 光文社新書 2013年10月)である。いやぁ~様々な生化学的「事実」と、筆者の思考実験には、実に「目から鱗」の本であった。
 その前に、筆者自身「糖質制限」だけで、半年で11キロの減量に成功、その他筆者のメール等にも(もともとこの人、創傷の湿潤療法の創始者として「傷は絶対、消毒するな(光文社新書)」を出し、HP も作っている)、「糖質制限で減量が出来た」「血糖値の値がよくなり、薬を飲まずに良くなった」「肌のつやが良くなった」「花粉症が良くなった」「ウルトラマラソンに初挑戦し、完走できた」などという健康改善の報告が続々と来ているそうだ。

 そもそも人間には「糖質」は基本的に「絶対必要」なものではないい…確かに脳神経系のエネルギー源は、ブドウ糖(だけしか使えない)であるが、ブドウ糖そのものは「糖新生」といって、アミノ酸を材料にブドウ糖を合成するシステムが人間には備わっている。逆にアミノ酸、脂肪酸は「必須アミノ酸」「必須脂肪酸」といって(あとビタミン、ミネラルの類)、食物から取るしかないものがある。だから穀物のような「炭水化物の塊」なんか採らなくても、タンパク質と脂質だけ食っていれば大丈夫なのだ。
 しかし栄養学の本には、炭水化物、脂肪、タンパク質が3大栄養素であり、その中でも炭水化物は食事量の6割くらいが適量とされている。「生活習慣病を予防するためには、脂質の比率を25~30%以下に抑えるべき」「炭水化物は60%前後と、もっと多く必要」「炭水化物:タンパク質:脂質の比率は3:1:1が望ましい」というようなことが書かれている(p84)  しかしこれが本当に「人間に必要な栄養素のバランスか」というと、根拠は実に怪しい・・・厚労省や農水省が推奨する「食事バランスガイド」も、だいたいそんな比率になっているのだが、実はこれ、日本人の平均的な食事の量がこうなってますよといった結果でしかない。炭水化物:タンパク質:脂質=3:1:1も、こんな感じで「健康な」人が普通に食べている量の平均的な値なんだろう。

 ところが、人間にとって炭水化物は必要ではない…筆者はこれは「嗜好品だ」とまで言い切る。たまたま炭水化物・・・糖質過多の食生活を送っているのは、穀物生産のおかげだからだ。
 なるほど、穀物生産の向上により「狩猟・採取」時代から(筆者は人類はもともと肉食系の雑食動物であり、穀物生産を始める前にはわずかな家畜を飼って、山の中でドングリなどを食っていたと・・・それが1万年前、「肥沃三角地帯(メソポタミア)」に出てきて、あるきっかけで農耕を始めたと考えている)、人口は増え、文明は栄えるようになった。ただ、それによって「糖質過多」による不健康も増えたのだ。
 ただし、「穀物生産」も、今後どうなるかわからない…合成した窒素肥料をふんだんに与えて環境を汚染し、また水を多く使用する「灌漑農法」がこれからいつまでも続けることができるか不安な状況だ…(アメリカの穀倉地帯を支える、オガララ帯水層は、あと25年ほどで枯渇するという専門家の意見が多い…p125…そうな)
 もし穀物生産がダメになった場合「いやでも非穀物食に切りかえるしか選択肢はない。それによって90億人が生き延びられるかどうかは不明だが、「糖質食人間」たちが、穀物にしがみついてその奪い合いをするしかないのに比べれば、非糖質食・非穀物食にさっさと切り替えたほうが、まだ生き延びる可能性があるかもしれない。」(p131)と、穀物文明の行き先の転換をも提示している。その際、農作物は穀物に代わり、大豆などのマメ科の食物が中心になる・・・

 その他、生化学的、進化論的な興味深い話、思考実験も多く、面白い例えば「脳神経」の栄養素はブドウ糖オンリーなので、空を飛び激しく脳神経を使う鳥類は、哺乳類に比べ血糖値が高い(余談ではあるが、サイボーグ009は加速装置を使う時に、脳をチューンナップさせるという新たな「設定」がある・・・ということは脳をモーレツに働かせるため、普段から009は高血糖でなければならない)、人類を含め霊長類は、排泄をコントロールすることが出来ない・・・それはもともと「集住」「定住」するような動物ではないからだ。(「定住」する動物は、巣が不潔にならないよう、「トイレ」が必要になる。だから人間はトイレを教えることが難しいのだ。

 「糖質制限」の良いところは、少し知識があれ誰でもすぐに出来るということだ。逆にデメリットとしては、エンゲル係数が上がる・・・「主食」がいちばん安いので、他のものを食うと食費が高くなる・・・ただし、「糖質制限」に慣れると、あまりたくさん食べなくても満足できるので、エンゲル係数の上がり方も少なくなるそうな。

 一応のやり方としては、①プチ糖質制限・・・夕食のみ主食抜き②スタンダード糖質制限・・・朝食と夕食のみ主食抜き③スーパー糖質制限・・・三食ともに主食抜き(p41)というのがある。また、油類はいくら摂取してもOK、揚げ物の衣くらいなら糖質はそんなにないから、大量摂取しなければ大丈夫とある。

 さて、コンビニ行ってとりあえず夕食を「糖質制限」してみるか

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コメント

けど、現実は穀物栽培して主にそれを食べるということを止めるわけにも行かないのでは。
穀物を飼料にして畜産とか養殖とか、あまり効率が良くないとも思いますけど。間違っていたらごめんなさい。

投稿: BM | 2014年3月17日 (月) 20時26分

たしかに全人類がいきなり「糖質制限食」なんて始めたら、世界の食文化や菓子産業は壊滅するでしょう(^^)
とりあえず、「健康法の一つ」と割り切って実践してみるのがいいと思います。
あと、本の内容の面白さは、保証します(^^)

投稿: あるみさん | 2014年3月18日 (火) 21時15分

いくら食事改善しても、まともな運動時間とか、睡眠時間を確保できないクソみたいな労働環境じゃ……


と思ったけど、よく考えたら日本人は長寿の国なんだよな。不思議。

投稿: ROM人 | 2014年3月19日 (水) 19時28分

人類がこんなに住環境を広げて増えて しかも長寿になった原因は穀物食に適応して農業を発達させたからです。元々猿の祖先も原人も主食は木の実草の実などの植物食だと言うのは常識で、肉食動物はすべからく短命なのも事実です。

「人類を滅ぼす」どころか人類繁栄の原動力が穀物食なのに、夏井坊は何を寝言言ってるのかとしか思えません。無知な愚民を極論で釣って金儲けしようとでも思ってるんでしょう(笑)

肉1㌔生産するのに必要な穀物が7㌔程度とされてるので、穀物食を止めて肉の生産を増やしたら、世界規模でとんでもない食糧難がやってきます。

糖質制限ダイエットなんて、普通のカロリー制限とか運動療法で済む事を偏った極論で誤魔化してるだけで、カルト宗教と同じです。

タンパク質の過剰摂取は有害な窒素化合物を増やし、骨のカルシウムを消費するなどの弊害が知られていて体に悪いのも事実だし、タンパク質を活動エネルギーに変える為にもエネルギーを浪費します。「血糖値を上げない」為だけに数多くのリスクを抱え込む「スーパー糖質制限」なんて不健康法以外の何物でもありません。

投稿: 節制実践者 | 2014年4月26日 (土) 01時46分

節制実践者さん、コメント投稿ありがとうございます。
ブログ記事にでも書いてありますが、夏井氏は穀物大量生産が破綻する可能性を心配しており、その折には「豆科植物」…主に大豆ですかね…を栽培するしかないと考えているようです…あとは海産物ですかね。(穀物栽培が破綻すると、現代の畜産による肉生産もできなくなります。)また夏井氏も穀物の大量生産による人類文明の発展という「事実」は認めています。

タンパク質の過剰摂取を気にされているようですが、そのへんは「主食」以外のオカズ、特に野菜類の食物繊維でバランスをとればよろしいかと思います。「スーパー糖質制限」は糖尿病が悪化しつつある人だけがやれば、とりあえずはいいでしょう。

投稿: あるみさん | 2014年4月26日 (土) 14時21分

 TB有難うございました。一時的な血糖値上昇の為に、会社の定期健診で糖尿病と誤って診断されたのがきっかけで、あるみさんからのTBでこの夏目さんの本の事を知りました。くだんの本はまだ読んでいませんが、今日受診した鍼灸治療の中でも、この炭水化物の功罪が話題に出ました。
 その先生も、炭水化物は不要とまでは言いませんでしたが、確かに日本人の食生活にはまだまだ蛋白質が不足していると仰っていました。昨今、かつての欧米食偏重への反動からか、ベルツの研究などの例を上げて、米食を過度に賛美する傾向が一部にあるが、それも間違いであると。
 明治時代に来日したドイツ人医学者ベルツが、当時の飛脚に肉食を勧めたら却って健康を害したという話が、今の米食礼賛に繋がる訳ですが、これも一度に大量のエネルギーを消費する飛脚という仕事にとっては米食が一番理にかなっていたというだけで、それが必ずしも健康にとって良かった訳ではない。寧ろ栄養の偏りから来る短命やビタミン不足による脚気の原因にもなっていた・・・という様な事を仰っていました。
 でも、その一方で、じゃあ反対に肉食オンリーが健康にとって良いのかとなると、それもどうかなと思います。要はバランスが大事で、その中で今はもっと蛋白質を取るべきでは、という所に落ち着くかなと。

投稿: プレカリアート | 2014年4月27日 (日) 19時03分

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