家事労働ハラスメント
家事労働にどんなイメージを持つだろうか…「お金で測れない神聖なもの」「創造性のいらない単純労働」と、その評価は持ち上げられたり、貶められたりするが、「だから、家事は対価はいらない」無償労働で良いとされてきた。このような状況が、現代の「貧困」に結びついていると指摘するのが、「家事労働ハラスメント」(竹信三恵子 岩波新書 2013年10月)であ
る。なお「家事労働ハラスメント」という言葉そのものはマスコミ等で「流通」しているわけではなく、「家事労働をやっている時への嫌がらせ」のようにも聞こえるが、著者は家事労働が「無償」で行われることを良いことに、「家事労働を貶めて、労働時間などの設計から排除し、家事労働に携わる働き手を忌避し、買いたたく。こうした『家事労働ハラスメント(家事労働への嫌がらせ)」と定義している。
さて、家事労働・・・人間の労働力を「再生産」するための、衣食住および子育て、介護等にかかわる家庭内の労働は「無償労働」として、多くは「妻」という女性に押し付けられてきた。それがゆえに「夫」である男性は、長時間の残業や遠距離通勤も厭わず、「家計賃金」を稼ぎ出すフルタイム正社員として働くことが出来き、また求められてきた。しかし女性が社会に出て「賃金労働」を行う時間が無くなるため、女性の経済力・発言力は低いまま。仮に働けたとしても、不安定で賃金の低い非正規雇用として使われるのが精いっぱいであった。「男女雇用機会均等法」が出来ても、女性は男性並みに「長時間残業、転勤」ありで働けますよとしただけで、女性が「無償の家事労働」を負担し続けるという意識・構造はほとんど変わらなかった。
時代は移り、生産拠点の海外移転や労働のサービス化が進む中、「正規職」を減らして賃金が低く、身分も不安定な非正規職が増えてゆく、正規職も家計賃金が稼げない中、女性も働かねばやっていけない状況になる。しかし「家事ハラスメント」により、家庭内の「無償労働」を引き受ける公的サービス(保育所)などのサービスは不足、長時間働こうにも働けない(あるいは長時間働いて体を壊す)や、「家事労働」の延長として保育、介護労働者の賃金が安く切り詰められてしまうといった、”貧困への道”が開かれたのである。
家事労働を1日の総労働時間に組み込まず、「無いもの(家庭の主婦が無償で担うもの)」としてきたのが、これまでの日本社会のあり方であり、それが貧困や生きづらさの根源の一つであるというわけだ。
筆者は解決策として、ワークシェアリングによって労働時間を短縮し、男性も含めて家事労働に参加できる「オランダモデル」、公的サービス(税金)による家事労働(特に保育)の外注化を図る「スウェーデンモデル」、私的なハウスメイドを外国人労働者に求めて解決を図る「シンガポールモデル」の3つをレビューし、日本ではオランダモデルの導入が良いのではないかとも述べている。
なお、この本はルポ形式で書かれているため、個々の事例の紹介も多く、今書いたことだけでは語りつくせないこともたくさん書かれている。「総労働時間への家事労働の組み込み」政策がないまま、「女性の活用」をうたう安倍政権(というか、日本社会)のあり方にも批判的だ。ジェンダーや貧困問題に興味のある方には、ぜひ一読をお勧めする。
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コメント
個人的にはベーシックインカムの導入かな。
これだけ機械が発達してるんだから、労働なんてものはできる限り機械に任してしまえばいい。
労働はそれが好きな人が、自分の楽しみ半分でやればいい。好きな人は伸びが早くて、嫌々やっている人間の数倍効率よく働ける。
一人暮らしなんて、家賃を抜けば3~4万あれば事足りる。あとは自分がもっと金が欲しいと思う奴が働けばいい。
労働が必須でないのだから、ブラック企業は消える、本当にやる気のある奴だけが仕事する。万々歳だ。
もちろん、その金が国外に逃げるような、外国人にもあげるとか、アホみたいなことをしないのが前提だが……
投稿: ROM人 | 2014年6月 3日 (火) 00時36分
個人的な生活の問題ですが男女共同参画が大嫌い。
家事労働に対価をとか一律に個人生活に干渉する匂いがしていやです。
結婚したから家族の為に身を粉にするのも夫が妻を互いに尊重する、ワークシェアリングなども違和感があります。
サヨク的な言説では過程を大事に家族を大事とか言いながらも次世代の日本人を劣化させるのじゃないかとの恐れが消えません。
女性には次世代の日本人を育てる尊い喜びと義務がありながら家事労働に問題をすり替えされています。
女性は個人のそして家の歴史を重ねる偉さがあります。
先祖を敬えなどは別に好きじゃないけど日本人的歴史を否定するのは駄目、少なくとも無視すべきではありません。
オランダを見習えよりも日本の歴史を見直せです。
女性を強制的に労働現場へ向かわせるのこそ保守よりも革新勢力です。
サヨクでありながら拝金志向を利用して個人を家庭よりも職場に囲い込もうとする労働崇拝主義、通称資本家もビックリです。
これからはマイルドサヨクとして一人3~4万あれば暮らせるとして労働至上主義は止めましょう。
投稿: tatu99 | 2014年6月 3日 (火) 11時28分
日本文化以前に、生物的に雄は食糧を得て、雌は子を育てるってのが正しいからな。知性やら文明やらを得ていい気になってるけど、しょせんはちょっと頭脳の発達した哺乳類。
その根源を無視すりゃ、ひずみもでるってもんだ。
投稿: ROM人 | 2014年6月 4日 (水) 01時44分
生物的に食物を長期間雄から貰う牝なんていないでしょ。雄が餌を運ぶのはせいぜい授乳期間。その根源を無視するから専業主婦なんてひずみが出るんじゃないか?
投稿: kuroneko | 2014年6月 4日 (水) 16時12分
>女性は個人のそして家の歴史を重ねる偉さがあります。
だから何故、男の側の姓を名乗るカップルが9割もいるのか疑問ですねえ。
男の親との同居も極力やめるようにして、育児を気兼ねなく頼める自分の親との同居を選ぶのが合理的、って話になるのかな。
投稿: kuroneko | 2014年6月 4日 (水) 16時15分
ROM人さんへ…BIもまた「家事労働」への対価問題として、アメリカの公民権運動の中から出てきた概念の一つなんだそうです。シングルマザーをやらざるを得ない「黒人の母親」が担う「家事労働」を、なんとか金銭的に評価できないかというところから始まっています。(本書にBIの事例がないのは、単にやっている所がないからですね)
あと、家事労働は機械化で楽になる…ということは、著者は否定しています。様々な家事専用機械に囲まれてそれを操作する「工場労働者になるだけ」と批判しています。
投稿: あるみさん | 2014年6月 4日 (水) 21時11分
家事労働のロボ化なんて、今の時代そうじゃん。
洗濯機、掃除機、炊飯器、さらには工場で作ったお惣菜や外食産業。それだけで十分生活可能。
工場労働者になるだけ、といっても、生産量は莫大に増加してるわけで。まぁいまはまだ完全には遠いが、一世紀もすればロボットを修理する(もちろん自分も)ロボットぐらい作られそう。
そうすればあとはロボット任せだ。
かつてローマが反映した時代の奴隷を、今度は無心の機械にやらせればいい。
投稿: ROM人 | 2014年6月 4日 (水) 21時55分
アマテラスの時代から日本では女系家族だった?と考えます、光源氏の時代も同居せず女性のもとへ通う良い時代でした。
大陸からの影響で男系社会になる。
以上はどうでも良いことですが日本の少子化、なかでも第1子出産時の母親の平均年齢は30.4歳にはマイッタ。
女子は今でも16歳から結婚が認められるし、かつては20歳前で結婚子持ちが珍しくない。
人それぞれに生き方があるけど女子の高学歴化で晩婚化さらにおだてられて男女共同参画でお仕事に励んで更なる晩婚化非婚化となったのは左翼のキレイごとによる日本滅亡化計画、その仕上げが移民受け入れ策略なのだ。
15でネエヤは嫁に行きの夕焼け小焼けの赤とんぼの時代こそ貧しくても日本人の心があったような。
投稿: tatu99 | 2014年6月 5日 (木) 10時14分
>大陸からの影響で男系社会になる。
「嫁をとる」なんて観念は中・韓に陰謀だ、ってことにして、里方居住が日本の本来ってことにするほうがいいんじゃないの?
>左翼のキレイごとによる
ワープア作っといて、若者にばんばん結婚させようというのがそもそも無理なんです。左翼のせいにすれば目先の矛盾に目をつぶっていられると思うのは大間違い。
15で嫁入りしたネエヤというのは子守っ子ですからね。子育ては母親がベタッと張り付いていたのではないので、昔はベビーシッターがいたって歌詞だってことを忘れずに。
投稿: | 2014年6月 5日 (木) 12時16分
少子化対策と女性の社会的活用の両立というなら、まず、国立大学に保育所を併設させることから始めればいいのに。
保守派のほうが、日本固有の価値とか美しい家族像とかきれいごとをいって、政策が後ろ向き。
投稿: kuroneko | 2014年6月 5日 (木) 12時19分