資本主義は必ず終わる…資本主義の終焉と歴史の危機(その1)
「資本主義の終焉と歴史の危機」(水野和夫 集英社新書 2014年3月)を読んだ…マルクスは資本論の中で「利潤率は低下する」と述べている。この本の著者は利子率が低下し、低いままで推移していることをもって、「資本主義の終焉」を見ている。具体的に、日本の10年国債の利回りは1997年に2.0%を下回り、2014年の1月末時点では0.62%である。さらにアメリカやイギリス、ドイツの10年国債も金融危機後には2%を下回り、短期金利の世界では事実上のゼロ金利となっている。利子率が下がっているということは、「投資をしても利潤が得られない」という世界になっているということだ。
マルクスの「利潤率低下の法則」は、資本構成が高度化し不変資本(工場設備・原材料など)が可変資本(労働者の賃金で、剰余価値の源泉となる)の割合より大きくなっていくので、利潤率が低下するとしているのだが、著者はブルジョワ学者なので(収奪し)投資するフロンティアが無くなった…無くなりつつある…ことが、利子率さらには利潤率の低下の原因だとしている。
そして歴史を振り返ると、このような利子率が極端に低い時代が16世紀から17世紀にあり、これを筆者は「長い16世紀」と呼び、この過程で地中海世界(スペイン・イタリア)の没落と覇権のイギリス・オランダ等への移動を含む、中世から近代へのパラダイチェンジが起こり、資本主義社会が軌道にのった…今の「低金利時代」は20世紀の終わりから21世紀にかけての「長い21世紀」の始まりであり、資本主義をパラダイムチェンジして「脱成長」社会に移行していかなければならない…資本は「増殖」することに「存在意義」があるので、「脱成長」をやるということは「資本主義が終わる」ということなのだ。
資本主義の行き詰まりのきっかけは、アメリカがベトナム戦争に負け、軍事力で市場を広げることに行き詰まったこと、オイルショックにより安い原油(原材料)の入手が困難になったところからだとしている。筆者はこれを「地理的・物的空間」が拡大しなくなって、「フロンティア」が無くなったと説く。その後、アメリカは金融立国を掲げ、IT技術を駆使して「電子・金融空間」を創造することで生き残りをかけたが、それもITバブルの崩壊やリーマンショックで行き詰まったのが現代である。
「グローバリゼーション」は、資本の国際移動が本格的になった1995年頃からのことだが、これは「中心」と「周辺」を再編する課程に他ならない。
「BRICS(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)が台頭する以前の20世紀末までは、「中心」=北の先進国(さらにその中心がワシントンとウオール街)、「周辺」=南の途上国という位置づけでした。しかし、21世紀に入ると、北の先進国の「地理的・物的空間」では満足できる利潤が獲得できなくなって、実物投資先を南の途上国に変え、成長軌道に乗せたのです。
資本主義は「周辺」の存在が不可欠なのですから、途上国が成長し、新興国に転じれば新たな「周辺」をつくる必要があります。それが、アメリカで言えば、サブプライム層であり、日本で言えば、非正規社員であり、EUで言えば、ギリシャやキプロスなのです。」(p41~42)
こうしてグローバリゼーションは、世界に1%の「富裕層」だけに富が集中し、残り99%には富はまわってこない世の中を作り出した…新興国の「成長」もまた同じように国内での貧富の格差を拡大させる。加えて実態のない「利潤」を求めて「投資(投機)」に走るから、必ずバブルが起こり、弾ける。このとき多くの労働者は「自己責任」でリストラされるが、資本家は国家から「税金」による救済を受け、また利潤蓄積に邁進できるダブルスタンダードがまかりとおることになる。
また「こうした国境の内側で格差を広げることも厭わない「資本のための資本主義」は、民主主義も同時に破壊することになります。民主主義は価値観を同じくする中間層の存在があってはじめて機能するのであり、多くの人の所得が減少する中間層の没落は、民主主義の基盤を破壊することに他ならないからです。」p42
さらに「福島第一原子力発電所」事故で、「安価なエネルギー」(本当は安価でもなんでもなかったが)を求めた科学技術…これが生産性を高め、資本主義をより一層発展させた…にも信頼がおけなくなった。
例え新興国(例えば中国)に覇権が移ったとしても、システムが資本主義のまま「成長」を求めるなら、必ず破局が訪れる…せいぜいシステムを数十年単位で生き延びさせるだけだと筆者は考える…もう「成長」は求めることができないのだ。筆者は「アフリカのグローバリゼーション」が言われるようになると、資本主義は終わると説く…もうどこにも「投資」をして「利潤」を求める場所がなくなってしまうからだ。
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コメント
資本主義の終焉といわれても収奪する者とされる者がなくなると単純に理解するなら目出度いけどよくわかりません。
世界に1%の「富裕層」などといわれても遠い別世界のことだし、貧困層までぶくぶく太ったアメリカ社会(ジャンクフード効果)から将軍様以外は痩せこけた北韓国社会までキリがありません。
富裕層と言って敵視したところでいずれ死にます。
どうせ人間の一生における喜怒哀楽・食事量セックス回数など大差なさそうです。
経済格差を絶対視してこそ資本主義の消滅が好い事ですがそれより特定国の権威主義ニュースなどに不快感を覚えます。
資本主義=経済主義と考えるとき個人レベルでは絶対的なものでなく権威主義=世襲主義=カルト宗教などよりはまともです。
資本主義・グローバリゼーションが崩壊するとしても世界同一で起こることないのでその順番を見極めることこそブルジョア経済学者から一般人までうまく立ち回れば金儲けのチャンスです。
戦後食料不足モノ不足の時代?から比べたら貧乏人の私などさえ最低限の食事は確保されますから今さら資本主義が崩壊でもどうでも良いと考えてしまいます。
投稿: tatu99 | 2014年10月 6日 (月) 11時46分
じゃぁ資本主義を捨てて今さら共産主義とか、社会主義にでもいくのか?悉く失敗して独裁者生んだ酷いシステムなんぞ、今更誰もやらないと思うが……
システム、主義など所詮はただの衣。本質は、誰がトップになるか、だ。
独裁だろうが民主主義だろうが、社会主義だろうが資本主義だろうが、トップがゴミならば腐るだけで、逆にトップが優秀な人材ならば、国は栄える。
主義主張はそのあとからついてくるものでしかないとおもいますが。
投稿: ROM人 | 2014年10月 7日 (火) 01時02分