広告は社会を変えることができるか?
チリで1988年、国民の信任投票によってピノチェット独裁政権が打倒された時、「NO派」の広告宣伝を引き受けた広告マンを描いた映画「NO」 を観てきた。主演は「モーターサイクルダイアリーズ」で若きゲバラを演じた、ガエル・ガルシア・ベルナル・・・かっこいいねぇ~。また本映画はパブロ・ラライン監督の長編「トニー・マネロ」「検死」に続く、チリ独裁政権3部作の完結編なんだそうな。
ピノチェット信任投票が行われる前、政権は「SI(イエス)派」と「NO派」に対し、深夜に15分ずつTV広告の放送枠を認めた(独裁政権側は、そんな深夜に誰もテレビなんか見ないとタカをくくっていたらしい)。そんな中、フリーの広告マン、レネの所に、家族ぐるみで付き合いのあったNO派の友人ウルティリアが、「NO派」の広告を作ってくれと依頼する。
「NO派」が作ってきた広告は、ピノチェット政権の弾圧や抑圧を告発する暗いものばかりであった…レネはそれではダメだと考え、虹(NO派に結集する政党・党派を表す)にNOと書いた分かりやすいアイキャッチを作り、独裁を否定すれば明るい未来、喜び、そして希望がやってくるということを前面に出した広告を作成してゆく。もちろん、弾圧をうけてきた党派の指導者達の中からクレーム、批判がでてくるが、そんなことはお構いなく、あえてチリには居ない長身の青年やフランスパンを出したり、有名な俳優を集めて「ジェームズ・ボンド」風の広告を作って、世に出してゆく。
対して「SI派」は、ピノチェット政権のこれまでの経済成長の実績・・・話はそれるが、CIAの工作を受けて、議会で選ばれたアジェンデ社会主義政権をクーデターで打倒し、弾圧したピノチェット政権には、いわゆる「シカゴ学派」と呼ばれる経済学者が入り込み、今の「新自由主義」経済政策の走りをチリで「実験」した。その結果の経済成長であり、当然「貧富の格差」が拡大していた・・・をアピールし、「NO派はマルクス主義」「今の幸福をつぶしたくありませんね」というキャンペーンも張る。また映画中にも出てくるが、「NO派」への嫌がらせ、尾行、脅迫等も行われる。
ま、最終的には「NO派」が5割以上を占めて勝利し、「再クーデター」を考えていたピノチェットも側近の将軍が「NO派の勝ち」を認めることによって、ピノチェット独裁政権は打倒され、レネはまた普段の生活に戻るところで幕を閉じる。
ただ、パンフレットにも書かれていたが、あくまでもこれは「広告マン」にのみ焦点をあてた映画であり、実際にピノチェットを打倒する「NO派」は、弾圧をうけながらも様々な運動を続けていた。「広告」はその時代の気分を写すものであり、決して斬新な「広告」そのものが世界を変えるということはないだろう。ゆえにレネはヒーローですらない(実際の広告作成は、2人の広告マンが作ったそうで、その2人を1人に集約したキャラクターが「レネ」である)。レネの広告が成功したのは、独裁政権による一方的なTVに飽き飽きしていたチリ国民の「気分」にマッチしたものだったからだと解説されている。
しかし、映像による「宣伝」のやり方を、もっと工夫せねばならないということは、我々左翼陣営に(もちろん右翼陣営にも)使える手ではないかという問題提起として、この映画はあるだろう。現在の日本では、TV広告は博報堂や電通などの大手広告代理店に抑えられ、体制や政権に対する批判的な広告を出すことは無理である。しかしインターネットが普及し、動画サイトも多数ある中、集会やデモの映像、単なる事実の暴露だけでない「左翼の広告」があれば面白いのではないだろうか?そうした「人を引き付ける」広告から、現実に起こっている問題に目を向けさせる…そんなこともしなければならないだろう。
| 固定リンク
「映画・テレビ」カテゴリの記事
- 映画「新聞記者」を観た!(2019.07.18)
- ガールズ&パンツァー最終章 第2話(追記あり)(2019.07.01)
- 絶対面白いぞ!映画「主戦場」(2019.05.14)
- デニーが勝った!他(2019.01.28)
- 映画「マルクス・エンゲルス」(2018.05.22)
「かくめいのための理論」カテゴリの記事
- 設計変更を許すな!奥間政則さんの学習会(2020.06.29)
- けんじと太郎でタヌキを追い出せ!(2020.06.18)
- BLACK LIVES MATTER”よりも”大切なこと(2020.06.14)
- コロナ禍での社会ヘゲモニーを握ろう!(2020.05.15)
- 憲法1条を守れば天皇制はなくなる?(2020.05.05)
コメント
>あるみさん
尖閣のことを主に念頭において「離島」と書いたつもりです。
尖閣で武力紛争が発生した際に、たとえば九州辺りの自衛隊基地が攻撃されることは戦術的には当たり前のことかと思います。
あと、海洋でのたとえば海底調査を巡っての紛争など幾らでも起こりうるというのが私の考えです。
国内矛盾による不満を外にそらすために対外的な緊張を作り出し、結果武力行使にまで行ってしまった過去の事例は多いと思います。
師走で何かとお忙しい折のレスありがとうございました。
投稿: BM | 2014年12月21日 (日) 20時14分
すみません。間違えてこちらに書き込んでしまいました。
この映画面白そうですね。見る機会があればいいのですが。む
投稿: BM | 2014年12月21日 (日) 20時17分
ゴルゴでも似たような話があったな。アフリカの大統領を、一つの賞品のように仕立て上げて地下資源を狙う話が。
結局。政治的にどうこう、ではなくて「見た目が良い」「スローガンが良い」ということが重要。ヒトラーのナチス党はその重要性を知っていた。だからこそ宣伝省なんてものまで作ってたわけだし。
広告と宣伝に精通する者が、政治を支配できる。民主主義てのは見た目が重要なクソ制度なんだよなぁ。タレント議員、スポーツ選手議員なんてその極みだ。
日本の政治宣伝はクソみたいなのしかないから、次の選挙で大々的に広告戦を行ったら、自民からあっさり政権を奪えるかもな
投稿: ROM人 | 2014年12月21日 (日) 22時42分
ROM人さん、とりあえずここでは「宣伝:の一つとして、短くて分かりやすい「広告」がどのくらい威力を持つか?ということを論じています。
ま、冗談ネタ的で極端ですが、「中核派」が85年10・20三里塚機動隊殲滅の映像を使って「あなたも不当な警察をやっつけませんか?」といような「広告」をばら蒔くことは、ひょっとして有効ではないか?(警察の「ネズミ取り」のような汚いやり方に腹を立てている人は、大勢いると思いますよ)という問題提起なのです。
投稿: あるみさん | 2014年12月23日 (火) 21時14分
個人的には次世代のタブーブタをテレビで流せなかったのは残念だな。あれは結構インパクトあったのに
投稿: ROM人 | 2014年12月24日 (水) 23時12分