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沈みゆく大国アメリカ

 やっと正月に読んだ本のレビューが出来る…「沈みゆく大国アメリカ」(堤未果)集英社新書2014年11月第1刷・・・彼女が書いた「アメリカ」シリーズの第何弾目?であろうか・・・この本はオバマ大統領が公約し導入した「アメリカ版国民皆保険」すなわち「オバマケア」について書かれた本である。

S20150110  アメリカにもついに「皆保険」が導入されたか…これで高いアメリカの医療費で「破産」したり、医療が受けられないで苦しむ人が
なくなるんじゃなイカと、思った人は、さにあらず…「オバマケア」は、欠陥だらけの「国民怪保険」だったのだ。

 日本の場合「健康保険組合」という形で、営利団体でない「組合」が健康保険の元となっているが、アメリカの場合、それを全て「民間保険会社」に任せてしまったのだ。民間保険会社に、あるスペックの「商品」を販売させ、それを無保険者が購入する…その「スペック商品」が、「オバマケア」の実態である。

 だから「オバマケア」を「購入」しようとすると、様々な「商品」がセットで付いてくる…いや、「セット売り」をしないと「オバマケア」として認められないのだ。だから老夫婦が「オバマケア」に入ろうとしても、そこには必要のない「妊産婦検診」だとかもセットで買わなければならない。
また、日本の場合、全ての病院で様々な「組合保険」が利用できるが、「オバマケア」を扱うか扱わないかは、それぞれの医療機関の裁量にゆだねられている。だから近所に「オバマケア」を扱ってくれる病院が無いという、トンでもないことが起こっている。せっかく「オバマケア」を手に入れても、近くに「オバマケア」を扱っている病院が無く、遠くの病院で診察を受けた時には、虫垂炎から腹膜炎に進行していて、手遅れだったというケースが紹介されている。

 また「薬価」が高いままなのも問題である。しかも「オバマケア」で扱われる「薬価」の保険がきく部分は、薬によって4段階ぐらいに分けられている。しかも、「高価な薬」ほど保険が効く割合が少ない…例を挙げれば、抗HIV薬…HIVは今だアメリカで「脅威」であるが、先進国であれば抗レトロウィルス薬を何種類か飲み続けていれば、AIDSを発症する心配はない。抗れロトウィルス薬はHIV感染者にとって、命の綱である・・・しかしそんな薬に限って「高価」で、かつ保険が効く割合が少ない…「保険」は使えるものの、結局は高価な薬を高価なまま飲み続けないといけないということが起こっている。

 「オバマケア」を扱う「かかりつけ医」が利益を上げられないシステムも問題とされている。良心的な医者は、「オバマケア」を扱いながら利益の上がらない患者を診て、赤字を増やしている…これではつぶれるだけである。病院の勤務医でも「ワーキングプア―」になる者が多い。それに対し、流通大手「ウォルマート」が医療部門に進出し、広大な店舗の一画で薬を売る事業を「かかりつけ医」の代わりに行い、利益を上げている。

 その他にもいろいろ問題があるのだが、筆者はこれを政界と製薬・医療業界との「回転ドア」のせいであるとする。(彼女の本を見ると、そういった「回転ドア」はアメリカ中どこにでもある)
 オバマケアが成立した時、メディケア・メディケイド担当に任命されたアンディ・スラビットは、全米最大の保険会社ユナイテッド社の子会社オプタム社の元社員だ。スラビットは、同法の施行について、しっかりと元職場の意向を組み入れ、ユナイテッド社の株価をあげた。
 2012年に保険福祉省の顧客情報と保険担当ディレクターを辞任したスティーブ・ラーセンは、回転ドアを逆方向に出ていった。オバマケア法の内容を熟知していたラーセンは、ユナイテッド社の幹部として迎え入れられ、その後同社はオバマケア保険の大半に独占的に入り込むことに成功している。(中略)
 
 2001年、全米最大の保険会社ウェルポイント社の社員だったリズ・フォウラーの最初の任務は、ドアをくぐって医療関係法管轄の上院金融委員会にもぐりこみ、メディケア処方薬改正の設計に携わることだった。同法は2年後に成立し、政府からメディケアの薬価交渉権を奪い、処方薬部分に民間保険会社が入り込む隙間を作ることに成功する。仕事を終えて政府を去ったフォウラーには、ウェルポイント社のロビイング部門副社長の席が与えられた。数年後、前回よりはるかに規模が大きい任務を果たすため、フォウラーは再び回転ドアをくぐると、今度は上院金融委員会の、マックス・ボーカス委員長直属の部下となる。
(オバマケア)法案の骨子を設計するために。
彼女は手始めに、医療・製薬業界にとって最大の障害である(単一支払い医療制度(シングルペイヤー案))を、法案から丁寧に取り除いた。日本やカナダのようなこの方式を入れたら最後、医療・製薬会社が巨大な利益を得られるビジネスモデルが一気に崩れてしまう。法案骨子が完成すると、フォウラーは次に保健福祉省副長官に栄転し、オバマケアにおける保険会社と加入者側それぞれの利益調整業務を任される。(中略)元の業界へと続く回転ドアを再びくぐったフォウラーを待っていたのは、最大手製薬会社の一つであるジョンソン&ジョンソン社の政府・政策担当重役の椅子だった。(p150~152)

いささか長い引用をしてしまったが、これは単に一個人が「回転ドア」を行ったり来たりして利益を得ているという問題ではなく、政府が完全に私企業・・・ウォール街に「乗っ取られている」ということだ。レーニンの「帝国主義論」では、金融資本家は政治家を「買収」することで、利益を上げる云々と書いてあったが、そんな生易しいシロモノではない…直接「政府の役人」として人を送り込むことによって、自らのところに利益が回るような「システム」が出来上がっているのだ。(これを堤未果は「国家解体」と呼んでいるが、むしろ「金融資本による国家の乗っ取り」と書いたほうが良いだろう)

さて、帯に書かれた「次なるターゲットは、日本だ」について・・・実は日本もまた、「健康保険」大国である・・・「病気」への不安に備え、私的な保険に加入している人が多くいる…この市場は、アメリカの業界にとっても、もっともおいしい部分である。また、日本の「国民皆保険」制度をつぶして、アメリカ流の「保険」を導入したら、それはまさに「金の卵」である。
 2013年、「特定秘密保護法」を通した裏に「国家戦略特区法」が通されている。要するに「特定の地区で、通常できないダイナミックな規制緩和を行い、企業が商売をしやすい環境を作ることで国内外からの投資を呼び込む」というものだ。その中で東京・大阪では「学校や病院の株式会社経営や、医療の自由化、混合診療解禁などの総合的な規制撤廃地区」を実現してゆくということだ…ここで「風穴」を開け、安倍政権は「岩盤規制」を崩すというスローガンの元、「国民皆保険」をぶっこわし、教育や医療といった「生きる基盤」をアメリカ流の金融資本に売り飛ばそうとしているのだ。

 この本の「はじめに」で、必ずしも関係が良くなかった筆者と父親の会話・・・糖尿病が悪化し父親が亡くなる前のもの・・・が書かれている「この国の国民皆保険制度を、なんとしてでも守ってくれ」
 これが堤未果への父親からの「遺言」だそうな・・・

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コメント

はじめまして。
医療さえ企業の金儲けの手段とされ、医療費が高額で貧しい人は受けられないとは、ホントあの国はおかしく、そんな国を手本として真似すれば「地上の楽園」だと妄想する安倍やマスゴミもおかしいですね。
早くアメリカに革命勢力が育って、金儲け企業が支配する体制をブッ潰して貰いたいですね。
それが世界の平和にとって最善ですから。

投稿: Cricket | 2015年3月 7日 (土) 08時05分

Cricket さん、コメントありがとうございます。
よく医療を題材にした漫画やドラマで「アメリカで最高の外科医術を学んできた医者」なんかが登場しますが、「最高の外科医術」その他も、「貧乏人」には関係のない世界なんですね。本書でも出てきたように、医者がいないために虫垂炎程度で「手遅れ」になって命を落とす…こんな「アメリカ医療」もよそ事ではなくなってくる…恐ろしい現実です。

投稿: あるみさん | 2015年3月 7日 (土) 21時33分

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