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日本は中国人民に負けたのだ!

 中国で「抗日戦勝利70年記念式典」が行われた…これについて右も含め「中国(共産党)は戦勝国ではない。」などと言っている…しかしその認識は多いに間違いなのだ。
 本多勝一・長沼節夫の「天皇の軍隊」(朝日文庫)には、山東省に派遣された治安部隊が、ドンドン「八路軍」においつめられ、にっちもさっちもいかなくなった状況も描いている。
 文庫版あとがき(1991年5月)に添えられた、藤田茂(前「衣」師団長)氏の言葉を、全文引用しておこう。
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 日本の旧軍人の中には、いまでも「日本は米軍に負けたが、中国には負けていなかった。」なんて思っているのがかなり多いね。だから一般の日本人にもそう信じている人が多いようだが、とんでもないことだよ。人民軍の強さってものを知らないんだねえ。われわれ第五十九師団の経験からいっても、これは全くどうしようもない事実だった。なにしろ総力をあげてでも、日本軍一個大隊を独立して駐屯させることもできなかった。あの調子じゃあ、あと一年も持ちこたえることもできなかったと思うよ。
 われわれの駐屯していた山東省東部は、最初に独立混成十旅団が占領していたが、そのあとわれわれ第五十九師団が警備地区として引き継いだところなんだ。八路軍はここを解放地区のひとつに選んでいた。
 1942年ごろから住民に教育が徹底しはじめたね。始めのうちは、われわれの一個中隊だけでもよく警備できていたのが、だんだんあぶなくなってきた。われわれが苦力(労働者)に使っていた中国人にまで八路軍の正しさに目覚める者がふえてきたんだ。だから討伐に出るときなんか、出発の夜のうちに行動がもれてしまう。こっちの様子なんか手にとるように知られるようになってきたよ。
 こうゆう状況がすすむにつれて、八路軍の攻撃も激しくなってきた。一個中隊だけでは夜襲で全滅してしまうんだ。第五十九師団というのは、一個大隊が独立して戦闘できる装備を持っていたが、1944年にはいると、それでさえ八路軍の夜襲に耐えることがむずかしくなってきた。
 こんなことでは、日本軍はジリ貧の末につぶれてしまうことがハッキリしてきたから、昭和二十年の五月一日から二十日間ほど、「秀嶺第一号作戦」という大々的な掃討作戦をやった。これは第五十九師団のほかに、第五独立混成旅団と第十二特別警備隊も加わっての、三期に分けて行動する大作戦だった。
 ところがだよ、これで八路軍からはネコ一匹かからないんだ。反対にこっちは、旅団長の戦死をはじめ、相当な死傷者を出してしまった。作戦はみんなウラをかかれたね。このあたりの八路軍主戦部隊は、賀龍将軍などの活躍する「山東縦隊」だった。(p414~416)

 本多勝一氏も、「初版解説 加害者としての記録の必要性」1974年5月15日・・・で、こんなことを書いている。

 これはまた実に不覚なことですが、私は「日中戦争」の日本軍は、蒋介石の中国と戦うのが主な仕事だと、子供のときから思い込まされたままでした。ところが事実はまるっきりそうではない。いや、ほとんど正反対だとさえいえます。本書のいたるところに出てくるように、日本軍は蒋介石軍としばしば手を結びます。ときには同盟軍として、ときには傀儡軍として。蒋介石軍というものの本質が、あのころから明確に出ているわけです。・・・結局は八路軍(人民解放軍)こそ、終始正面の敵として現れます。(p433)

 巨視的な問題としては、こんなことも本書から理解されます。日本は合州国に負けたと思っている人が、今なお多い。これはドイツが米軍を中心とする英・仏などの西欧軍に負けたと考えるのと同質の大きな過ちです。ドイツがソ連にこそ本質的に負けたことは、独ソ戦争を少しこまかく調べればわかります。・・・全く同様に、日本軍は米軍など来なくても、原爆や沖縄戦がなくても、単に中国だけと戦争していても必ず敗北していた。その具体的な状況は、本書にみられる通りです。日本は中国(とくに八路軍)にこそ敗北したのであって、米軍はドイツにおけると同様、漁夫の利をしめにやって来ただけだと極論しても、基本的には間違いないでしょう。(p433~434)

 と、まあこれが「実態」である。まぁ「中国だけと戦争して」負ける場合、中国側には戦略爆撃機とかないから、日本本土等は空襲されたりしなくても、米軍がベトナムに負けたような「みじめな撤退」を強いられることになったということだろう。

 これが冷徹な、「歴史の現実」である。

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