自民党「憲法改正草案」を読んでみる(その4)
「権利章典」の後は、国会、内閣および司法を規定する部分である。
まず、国会について、草案第二十七条では「選挙区、投票の方法その他両院議員の議員の選挙に関する事項は、法律で定める(このへんは現行憲法と同じ) この場合においては、各選挙区は、人口を基本とし、行政区画、地勢等を総合的に勘案して定めなければならない」と、いわゆる「一票の格差問題」に対応する旨を規定している…これは進歩だろう。
第五十二条の2に「通常国会の会期は、法律で定める」と加えられている…ここはどのような法律が出来るか…の判断に委ねられる…今国会であったよう、無茶な法案を強引に通すため、無制限に近い会期延長を認めないような法律を作らせることが肝要だ。
五十三条は、「臨時国会」の規定である…草案では「いずれかの議院の総議員の四分の一以上の要求があったときは、要求があった日から二十日以内に臨時国会が召集されなければならない」とある。現行憲法では、日数の規定はないから、ここも進歩である。
ただ、草案の第五十四条では「衆議院の解散は、内閣総理大臣が決定する」といきなり書かれている…「解散権」は内閣総理大臣が持つことを明確化しているのだ…現行憲法はこの「解散」についての規定が無く、「解散権」は内閣総理大臣が持つのかどうかというところが「憲法論議」にもなっていたが、最近は実質「内閣総理大臣」が「解散」を命じていたので、これは「現状追認」というところか…
第五十六条(評決及び定足数)では、定足数三分の一以上と、議事は出席議員の過半数で決することについて、その順番が逆になっている。現行憲法では「定足数」が先に来ているが、草案では「過半数議決」が先に来ており、いわゆる「多数決の原理」を先に持ってきている。理由はよくわからないが、「多数を取れば、何でもできる」という、安倍内閣や橋下流のやり方を重要視した…というところだろうか?
第六十三条で現行憲法は、内閣総理大臣その他国務大臣の議案に対する議院への首席可能、および「答弁又は説明のため出席を求められたときは、出席しなければならない」という、出席義務について述べられているが、草案では2項で「ただし、職務の遂行上特に必要がある場合は、この限りでない」と、大臣の力が強くなるような項目が追加されている。
そして草案で追加されたものの中に「政党」という項目が追加されている。第六十四条の二で「国は、政党が議会制民主主義に不可欠の存在であることに鑑み、その活動の公正の確保及びその健全な発展に努めなければならない」2「政党の政治活動の自由は、保障する」3「前二項に定めるもののほか、政党に関する事項は、法律で定める」との文言だ・・・これは現在、「政党助成金」を支払うための「政党要件」として法的に定められているものを、憲法に規定化したものともとれるが、逆に「政党」と認められなければ「議員」を送り込むことが出来ない現状をさらに固定化することにも繋がるだろう…また、時の政権に都合の悪い政党を排除することも法律で可能とするものである。
内閣についての大きな改変は、草案の第七十条の2に「内閣総理大臣が欠けた、ときその他これに準ずる場合として法律で定めるときは、内閣総理大臣があらかじめ指定した国務大臣が、臨時に。その職務を行う」と、七十二条の3に「内閣総理大臣は、最高指揮官として、国防軍を統括する」…これは九条で「国防軍」を規定した裏返しである。また、七十三条の六の、政令についての規定において、現行憲法では「政令には、特にその法律の委任がある場合を除いては、罰則を設けることができない」が、草案では「義務を課し、又は権利を制限する規定を設けることが出来ない」と、具体的に書かれている。
司法において、最高裁判所裁判官の任命について、第七十九条において現行憲法では②で「最高裁判所の裁判官の任命は、その任命後初めて行はれる衆議院総選挙の際国民の審査に付し、その後十年を経過した後初めて行はれる衆議院議員選挙の際更に審査に付し、その後も同様とする」という詳しい規定が、草案では「最高裁判所の裁判官は、その任命後、法律の定めるところにより、国民の審査を受けなければならない」と簡略化されている・・・もっとも最高裁判所裁判官の「国民審査制度」そのものが形骸化しているので、あまり意味はない。
また、草案の5で「最高裁判所の裁判官は、全て定期に相当額の報酬を受ける。この報酬は、在任中、分限又は懲戒による場合及び一般の公務員の例による場合を除き、減額できない」と、太字の分が現行憲法に追加されている。これは下級裁判所の裁判官にも準用される旨、第八十条の2に草案では追加されている・・・まぁ、これも妥当なところか…
次は「財政」であるが、「財政の基本原則」として草案第八十三条の2には「財政の健全性は、法律の定めるところにより、確保されなければならない」とある・・・オイオイ、こんな規定定めて、大丈夫かと、突っ込みたくなる条項であるが、「財政健全化」の名目の下、一般大衆への「大増税」が待ち構えていることは間違いない。
その他、第八十三条において、草案2で「内閣は、毎年会計年度中において、予算を補正するための予算案を提出することができる」3で「暫定帰還に係る予算案を提出しなければならない」と現状追認の文言を入れた後、4で「毎会計年度の予算は、法律の定めるところにより、国会の議決を経て、翌年度以降の年度においても支出することができる」と加えられている…これはいわゆる「予算消化」のための無駄な出費を抑え、余ったら繰り越せるという柔軟性を持たせたものであり、ここは進歩であろう。
その他、草案第八十九条において「公金その他公の財産は、第二十条第三項ただし書に規定する場合を除き、宗教的活動を行う組織若しくは団体の使用、便益若しくは維持のため支出し、又はその利用に供してはならない」とある…これも第二十条第三項の裏返し規定である。
「決算の承認等」という項目があり、草案第九十条の3において、「内閣は、第一項の検査報告(注…会計検査報告のこと)の内容を予算に反映させ、国会に対し、その結果について報告しなければならない」とある・・・ここは進歩であろう。
以上が、国の立法、行政、司法および財政に関する規定である…ここは現行憲法とほぼ同じか、進歩しているところが見受けられる。
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