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日本はなぜ「戦争ができる国」になったのか

 

日本はなぜ「基地」と「原発」を止められないか」の続編…矢部宏冶氏の「日本はなぜ「戦争ができる国」になったのか」を読んでみた。こちらは前著をさらに掘り下げ、日米間の「密約体系」…すなわち「対米従属性」の成立について、主に1952年の「サンフランシスコ条約による日本独立」と「日米安全保障条約(旧)」前後のアメリカで公開された公文書を元に、詳細に説明が成されているものである。(著者としてはなるべく理解しやすいよう、かいつまんだ書き方をしているのだが、結構難解である)S_000005_4


 また本書では日米安保の本質として①「基地権(米国が日本のどこにでも基地を配備できる)密約」の他、前著では著者も認識していなかった②「指揮権(いざ「戦争」の際には、日本の軍事力は米軍の指揮下に入る)密約」があり、後者を最終的に完成させたのが、「集団的自衛権の合憲化」と2015年の「安保法制の整備」であると説く…この②の部分だけで、表題の「日本はなぜ「戦争ができる国」になったのか」の答えが出てしまっているわけだ。
 
 また著者は「密約」を、1960年改定「日米安全保障条約」において文言上「双務的」「対等的」にしたものに、旧条約における在日米軍特権を残しておきたい日米両政府が、条約文書に現れない形で残したものか、旧安保条約でも、第二次世界大戦後の世界秩序や日本の占領・独立後の方針を定めた様々な条約や宣言等から「逸脱」するような在日米軍特権を残すために文書化出来ないものを残したものであると説く。別の言い方をすれば「見かけ」(アピアランス)と「実質」のちがいが、無数の密約を生み出した(p82小見出し)わtだから本書では「旧安保条約」で何がどう規定されたかという歴史と法や条約的位置づけ、さらに日米両政府の思惑の変遷から「密約」の成立に絞って書かれている。
 
 「指揮権密約」はアメリカ側の文書、19501027日に米軍(国防省)がつくった旧安保条約の原案にあり、その第14条「日本軍」に、次のように書かれている。

 ①この協定〔=旧安保条約〕が有効なあいだは、日本政府は陸軍・海軍・空軍は創設しない。ただし、それらの軍隊の兵力、形態、構成、軍備、その他組織的な特質に関して、アメリカ政府の助言と同意がともなった場合、さらには日本政府との協議にもとづくアメリカ政府の決定に、完全に従属する軍隊を創設する場合は例外とする。
 
 ②戦争または差しせまった戦争の脅威が生じたと米軍司令部が判断したときは、すべての日本の軍隊は、沿岸警備隊もふくめて、アメリカ政府によって任命された最高司令官の統一指揮権のもとにおかれる。

 ③日本軍が創設された場合、沿岸警備隊をふくむそのすべての組織は、日本国外で戦闘行為はできない。ただし、前期の〔アメリカ政府が任命した〕最高司令官の指揮による場合はその例外とする。p126127 ①②③と太字は矢部氏)

 いやぁ~この時は朝鮮戦争の真っただ中…米軍は確実に日本の「再軍備」を目指し、「統一指揮権」の下で一緒に…というか「日本軍」を配下に「戦争ができる国」にしようとしていたわけだ…もちろんこのような「原案」は当時の日本の憲法、世論、対外情勢等から「条約」には出来なかったわけだが、それを出来るようにしたのが「密約」だ…ということだ。現にその後、日本は再軍備し、冷戦終結後も「周辺事態法」「有事法制」整備を進め、ついには「集団的自衛権」を認めて「安保法制」を整備し、「米軍の指揮下の元で」戦争が出来る国になった…というわけである。
 
 
 
 ちなみに「指揮権」に関して、著者、矢部氏はこんなことを書いている…「私は何人か友人に、自衛隊の隊員がいます。そして、たとえひとりでも自衛隊に友人がいるかたは、現在の日本の自衛隊が「戦争になったら、米軍の指揮下にはいる」というような、なまやさしい状態ではないことは、よくご存じだと思います。

 そもそも現在の自衛隊には、独自の攻撃力があたえられておらず、哨戒機やイージス艦、掃海艇などの防御を中心とした編成しかされていない。「盾と矛」の関係といえば聞こえはいいが、けっして冗談ではなく、自衛隊がまもっているのは日本の国土ではなく「在日米軍と米軍基地」だ。それが自衛隊の現実の任務(ミッション)だと、かれらはいうのです。
 しかも自衛隊が使っている兵器は、ほぼアメリカ製で、コンピューター制御のものは、データ暗号もGPSもすべて米軍とリンクされている。「戦争になったら、米軍の指揮下にはいる」のではなく、「最初から米軍の指揮下でしか動けない」「アメリカと敵対関係になったら、もうなにもできない」もともとそのように設計されているのだというのです」(p125126
 もちろんこれはその通りで、自衛隊のもとである「警察予備隊」は朝鮮戦争で日本占領中の米軍が出ていった穴埋めとして作られたという経緯があるし、また最近では911同時多発テロの際、自衛隊が米軍基地を「防衛する」ということも起こっている。一方、日本が「帝国主義」として自立すること、東アジアにおける米軍の戦略変更の元、「島嶼防衛」は自衛隊の任務とされているため、現在の自衛隊が全く「米軍の指揮下でしか動けない」ということは無いのであろうが…しかし、北朝鮮が「ロケット」発射実験をする度、「破壊命令」が官邸から出ているが、実はこっそり「米軍に言われて」出ているのかも知れない…

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コメント

悩ましい問題だとおもう

米国は日本をコントロール下に置きつつ負担を抑えたい
日本は武力干渉を排除したいが自力のみでは米国を含む政治的な武力干渉に有効な対策が打てない

今後日本が侵略をして自滅する政策をとる確率は文字通り0%の小数点以下と思うから
軍事力を持つこと自体に反対はしないけどね

投稿: まとめちゃん | 2016年8月 6日 (土) 08時18分

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