オキナワ島嶼戦争(後篇)
では、このような「島嶼防衛戦」が発動されるにあたって、南西諸島に住んでいる住民の「避難」についてはどう考えられているのか?
何も考えられていない…というのが実情である。実際問題「ミサイルの打ち合い」が想定されているので、かなり早い段階で南西諸島の地上にあるものは破壊される。だから早い時期で「島外避難」をするのが正解だが、それでも「グレーゾーン」からシームレスに戦争状態に移行すると想定されていて、おまけに機雷戦・対潜戦もやるよという中で、フェリーや民間の船、航空機を動員して島外避難するということ自体、成り立たない。これより早い段階での島外避難は、相手に開戦・攻撃の意図ありとの信号を送ることになる(挑発として捉えられる)
島内避難はもう、お粗末としか言いようがない…学校もしくは堅ろうなコンクリートの建物…ぐらいしか想定されていない。人口分のコンクリートシェルターを作ることが、島の経済に役立つと述べる人もいる。おいおい
繰り返すが、宮古島や石垣島に配備されるのは、陸自のミサイル部隊である。車載式ミサイルを積んだトラックが、偽装して島内を走り回り、ミサイル発射・回避運動を繰り返すわけだ。当然、敵側はどこに車載式ミサイルがあるか分からなければ、全島、攻撃対象となる。
したがって、島内避難なぞ不可能である…結局「軍民混在」した沖縄戦の繰り返しとなり、住民(+戦闘に巻き込まれた観光客)の犠牲が出る。
宮古島や石垣島など、南西諸島への自衛隊配備に反対している人たちもまた、沖縄戦の記憶・教訓をもとにしているわけなのである。
ではどうするのか?小西氏は、「無防備都市(島)宣言」を提案している。「無防備都市宣言」とは、正確には「無防備地区宣言」(ジュネーブ諸条約追加第1議定書第59条)と言い、この宣言をした地域に紛争当事国が攻撃を行うことは国際法で禁止されている。具体的には、全ての戦闘員、移動可能な兵器、軍事設備を撤去し、軍隊や住民が軍事施設を使用することも、軍事行動の支援活動を行うことも禁止される。紛争相手国の占領を無抵抗で受け入れることを宣言するので「降伏宣言」でもあるが、現代社会において「無防備都市宣言」を行い、文字通り無防備の島々に対し手軍事的攻撃を行った場合、国際世論全てを敵にまわすことになる。
「無防備都市宣言」の事例は、フィリピン戦でのマッカーサーがマニラで行った事例がある…これで日本軍はマニラに「無欠入場」したおかげで、マニラの都市と市民は守られた。後に立場が逆転し、日本軍が米軍に攻められた際、日本軍はマニラで市街戦を行い、多くの人が犠牲になった。
もっともこれは実際に紛争(戦争)が起きている時の緊急避難的なものともいえるが、紛争を未然に防ぐために、太平洋の島々を「無防備」にしておこうとしたこともあった。それは1922年締結のワシントン海軍軍縮条約に「島嶼要塞化の禁止」というのがある。太平洋における各国の本土並びに本土にごく近接した島嶼以外の領土については、現在ある以上の軍事施設を設けない等、要塞化が禁止された。日本においては千島列島・小笠原諸島・奄美大島・琉球諸島・台湾、澎湖諸島・サイパン・テニアンなど、アメリカはフィリピン・グアム・サモア・アリューシャン諸島が対象となる。もっともこの条約は1930年代に日米対決の時代には骨抜きとなり、こっそりと軍事化が進められるが、逆にこの時代でさえ、アジア太平洋地域の島嶼を巡る軍拡の危機に対し、各国の非軍事化が推し進められたということに注目しよう。
いずれにしても、この「島嶼防衛戦争」の問題は、「集団的自衛権はダメだが、個別的自衛権ならOK」という単純なものではない…自衛隊=帝国主義軍隊は民衆を守らないという「原点」に立ち返って批判することが必要である…ということに尽きる。
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コメント
「文字通り無防備の島々に対し手軍事的攻撃」Χ対し手→○対して
日本軍はマニラにΧ「無欠入場」→○「無血入城」
明らかな誤字、誤植だと思いますが、小西さんの原文が間違っているのなら、「原文ママ」との付記が必要ですね。それともあるみさんが間違ったのでしょうか?
投稿: 元解放研 | 2017年1月 8日 (日) 19時34分
実際問題「ミサイルの打ち合い」が想定されているので、Χ打ち合い→○撃ち合い
投稿: | 2017年1月 8日 (日) 21時32分
他の書籍を紹介する形で公にされた
このブログの意思表示
1.人民解放軍を降伏状態で受け入れるべき
2.自衛隊配備に反対し批判をするべき
あからさますぎて絶句するが
本来沖縄の住民に
共産勢力を支持するバックボーンは無い
連れからの同情と援助を得る為の方便をいくら煽っても
「敵」にはならない
沖縄の人間が将来を分析した結果を侮らないことだ
中華人民共和国の統治下にある異民族の現状がどのようなものか
情報は大量にある
投稿: まとめちゃん | 2017年1月 9日 (月) 09時23分
>沖縄の人間が将来を分析した結果を侮らないことだ
さて、いつ「沖縄の人間」が将来を分析して「自衛隊の配備」を受け入れることになったのか、示してほしい…配備計画は「自衛隊」の計画でしかないのだが…最初のブログ記事で、宮古島では自衛隊配備問題も争点となって市長選挙が行われるし、石垣市長も受け入れを表明したものの、説明不足だとの声も上がっている…それなりに反対運動も存在していると言うことを書いたのだが、まとめちゃんさんはそうゆう人は「見えない」ようだ。
あと、結論を単純化しているが…では宮古・石垣に陸自のミサイル部隊を置き(これが自衛隊の計画)、かつ島民の安全を図る代案を、まとめちゃんが持っているのなら教えて欲しいものだ。
投稿: あるみさん | 2017年1月10日 (火) 19時43分
今回の記事の結語は余分だった、と思います。
「いずれにしても、この『島嶼防衛戦争』という問題は~...というに尽きる。」 この結語が有る為に文章全体が竜頭蛇尾に終わってしまった、と感じたのは、私だけでは無いでしょう。
単なる技術上の問題とは言え、やはり、不特定多数の読み手を対象にしている訳ですから、校正、点検は厳重にすべきだと思います。
誤字、誤植が目に付く事が多いと、思考回路が短慮、短絡的なのではないか?との誤解を生む可能性も有ります。
個人のブログは、その人個人の責任において、自由に表現すれば良いものです。しかし、沖縄の米軍基地や自衛隊の駐留への問題提起をされている訳ですから、普通の人々以上に注意深くされるべきだと思います。
投稿: 元解放研 | 2017年1月11日 (水) 14時05分
元解放研様、ご忠告ありがとうございます…ま、とってつけたような結語ですね、確かに…
投稿: あるみさん | 2017年1月11日 (水) 19時52分
戦争なんてしたくない
皆の共通認識だとおもうんだよ
沖縄21世紀ビジョンを読むと沖縄県民に
人民解放軍に占領されたいなんていう選択は無い
日本とアジアの架け橋を平和的に目指すのだから
攻め込まれる事も当然否定する事になる
そこで戦争の抑止のために何をするべきか
中国の国防動員法が制定されたのが2010年7月1日
2013年1月14日人民解放軍機関紙『解放軍報』は習近平中央軍事委員会(最高軍事指令機関)主席・総書記が中国全軍に戦争準備命令を出した事を報じた
しかしその後の報道で対日戦争に利益はないとの論調で順次情報を出しクールダウン動員解除となる
(同年3月の中国共産党中央軍事委員会による対日戦分析で必負の結論が出た為 5月の時点で戦争準備命令が解除されていた)
中国は明らかに負けると思われる戦争は仕掛けてこない
つまり受けて立つ覚悟で防衛能力(ケーブルセンサー網・深深度魚雷・衛星監視網・対艦船ミサイル)の整備を引続き維持することで
対中戦争を回避することが出来るということだ
投稿: まとめちゃん | 2017年1月11日 (水) 19時55分