有事にシームレス対応してはならない
以前レビューした、小西誠氏の「オキナワ島嶼戦争」において、1章を設けて「領域警備法案」について批判している。
「領域警備法案」とは、2015年の国会に当時の民主党と維新の党が、「安保関連法案」に対抗して出してきたものである。p182~
この領域警備法案の中心的内容は、紹介した自衛隊の治安出動関連の協定と同様、「領海・離島」などで警察の対処が出来ない事態に、自衛隊が当初から警察に代わって対処する、そのための離島などの「領域警備区域」を決め、この区域では、自衛隊に「平素から警察官職務執行法及び海上保安庁法上の権限を付与」する、ということだ。
自衛隊に、「平素から警察官職務執行法及び海上保安庁法上の権限を付与」するとは、言うまでもないが、自衛隊に治安出動と同等の権限を与えるということである。これは、後述するが治安出動という「有事」における権限が、平時から自衛隊に与えられるという、驚愕すべき事態である。
これは、グレーゾーン事態(平時から有事への移行期)へのシームレス(切れ目のない)な対処を可能にするため、というが、何のことはない。平時の仕事がない、暇な陸自に平時からの仕事を与える、ということだ。
ここで、グレーゾーン事態に対する「シームレスな対応」という言葉が出て来る…安全保障関連でよく使われる文言である。しかし、小西氏は続けてこう批判する。p183~
しかし問題は、民主党などが現在の東中国海を巡る情勢を全く理解していないことだ。ここで明確にすべき決定的に重要なことは、本来、紛争を平和的に収めるには、平時から有事の事態への「切れ目」をあえて作り出すことであり、それを断絶させることである。
現実に、もう一方の当事者の中国は、わざわざコーストガードを作り(中国船に英語で表示)日本の海上保安庁の存在(海上警察)に合わせてきているのである(2013年)。つまり、軍隊間の衝突を避け、警察間の関係で事を平和的に収めようということだ。
要するに「有事」に「シームレスな対応」をしてはイケナイ…ということ。つまりどこまでが警察権による行動で、どこからが軍事行動であるか明確に分けておきましょう…という考え方である。さもないとダラダラとエスカレートして、いつの間にか「戦争をしている」「軍事行動をしている」ことになりかねないからだ。逆に「一線」がどこにあるかはっきりしていれば、その一線を越えないようにする「努力」や「対話・交渉」が可能になる。
ゆめゆめ「有事」に対し「シームレスな(切れ目のない)対応を」などと言ってはならないのである。
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コメント
「東シナ海」は、単なる地理用語に過ぎないのに、何故わざわざ「東中国海」などと言い換えるのですか?
あるみさんの造語を応用すれば、インドシナ半島は「インド中国半島」に成ってしまいますよ...。
差別表現一般に対する批判には正当性が有りますが、あるみさんの言い換え=造語は、差別好きの保守派やネトウヨを利するだけです。「東中国海」という造語をみて、文化大革命中に街の通りを革命的名称に変えていった紅衛兵を思い出しました。
「事物の名称を変えたからといって、事物そのものには何の変化も」ありませんよ!!。
沖縄や三里塚について問題提起し、ブログを通じて啓蒙されるのは素晴らしい事だと思いますし、これからも応援団的立場で読ませていただきます。
しかし、支持するが故の苦言も敢えて言わせてもらいます。
投稿: 元解放研 | 2017年2月17日 (金) 00時09分
「東中国海」という表現は、引用した文書すなわち小西誠氏の表現であって、私の表現ではアリマセン。
なお、分裂前の革共同は90~2000年代に「東中国海」という言い換えをしていました。インドシナ半島は「インドチャイナ半島」と言い換えていました。(今どうなっているかは「前進」とか読んでないのでわかりません)
「再建協議会」は多分、東シナ海、インドシナ半島に戻っていると思います。
投稿: あるみさん | 2017年2月17日 (金) 20時39分
すみません。私の誤読でした。読み返すと、小西さんの文面でしたね。申し訳ありません。
あるみさんも「東シナ海」を地理用語と、お考えでしたら、「東中国海」の後に(原文ママ)と記されたら良かったのでは?とも思います。
これからも頑張って問題提起を続けて下さいね。非礼を重ねてお詫びします。
投稿: 元解放研 | 2017年2月17日 (金) 23時36分