”社会の安定帯”担うゼンセン
未来第226号 より 3面「安倍政権の『働き方』改革を斬る 第4回”社会の安定帯”担うゼンセン(森川数馬) の中から引用・紹介
100万件の労働相談
6月16日、厚労省は「個別労働紛争解決制度の施行状況」を報告した。これは全国に380カ所ある総合労働相談コーナーに寄せられた相談を対象にしたものだ。それによると16年度の相談件数は113万741件で、「9年連続100万件を超えている」という。そのうち労基法違反の疑いは21万件。07年度の相談件数が99万7千件なので、「10年連続100万件」といっても差し支えのない数字である。
相談の内容は、「いじめ・嫌がらせ」が5年連続トップで、約7万1千件。昨年から7%近くアップしている。「自己都合退職」が4万件。「解雇」が3万7千件と続いている。そのほか、「労働条件引き下げ」が2万8千件。「退職勧奨」が2万2千件となっている。
日本における新自由主義攻撃というと「総評解体」や「民営化攻撃」に目を奪われがちだが、これと一体で集団的労使関係を解体する「個別労働紛争処理システム」構築が進められていたのである。
「トラブルの未然防止」、「早期解決」とは「労働組合に相談に行かせない」、「労使紛争にさせない」ということが目的だったのだ。その狙いについては『展望12号』(13年4月)所収の拙論「問われる労働運動の再構築―社会運動的労働運動へ」を参照していただきたい。
さてこの「10年連続100万件」という数字は何を表しているのだろうか。相談件数が年間100万件ということは、概ね年間100万人が個別労働紛争解決制度を利用したということである。連合の組合員は現在674万人だが、その17%に匹敵する労働者がこの制度を利用しているのだ。年間100万人をこえる労働者が労働問題の解決を、労働組合ではなく公的制度に求めるという事態が10年間続いている。これをどう考えるべきだろうか。
筆者が4年前に『展望12号』で論じた時から事態は変わってきているように思われる。すなわち労働者が「労働組合には相談しない」、「期待しない」、「個人で解決する」という態度をより明確にしているのではないかということだ。この連載の第2回で明らかにした「若年層の自殺の深刻化」と合わせて考えると、労働環境の悪化をめぐる問題はいっそう複雑化している。
今の労働運動・労働組合がこうした事態に全く対応できずにいる。安倍政権はこうした事態を逆手に取って、「労働政策」に踏み込んできている。それが「働き方改革実行計画」だ。あたかも安倍が「労働者の味方」のように振舞うことを労働運動・労働組合が許してしまっているのだ。この問題を考える上で、連合のなかのUAゼンセンの動向に注目する必要がある。
UAゼンセンの位置
連合のなかではUAゼンセンだけが組織を伸ばしている。流通商業サービスなど第三次産業の非正規雇用労働者を企業丸ごと組織化することを方針として拡大を実現している。
UAゼンセンの組織人員164万2千人。自治労85万、自動車総連77万、電機58万を抜いて連合トップを続けている。高木剛前会長はじめ会長も2期出しており、連合内での発言力も大きい。
その組織実態は、男性40・4%、女性59・6%。正規職43・8%、非正規職56・2%。日本の就業者全体では、4月統計で男性55・6%、女性44・4%、非正規職40%。この数字を見ればUAゼンセンの組織実態が、日本の就労構造に対応しており、とくに非正規、女性の組織化に成功していることがわかる。
UAゼンセンは02年に「パートタイム労働者組織化に向けて」を発表し、06年から09年にかけて大手スーパーのパート労働者の組合員化に成功し、大きく組合員数を増加させた。そこでは一定の「処遇改善」もあったが、非正規雇用労働者を最低賃金ラインで企業に定着化させるものだった。これを労働組合の名でおこなったのだ。まさに95年日経連路線の柱のひとつの、労使による社会の「安定帯」としての労働組合の役割を、忠実に実践した組織拡大だったのだ。
実際UAゼンセンは、会社側と対峙して成果を挙げている地域合同労組にたいする対策を買って出た。大阪府労委は「会社は組合(天六ユニオン)の弱体化を図るため、社外労組(ゼンセン)に支援を求めて、新たな労働組合の結成に関与した」として不当労働行為を認定したことがある。こうしたやり方でUAゼンセンは非正規雇用の女性労働者たちを組織していった。それは労働運動の歴史的変質を示すものであった。(つづく)
労働者の団結や団体交渉で物事を解決するという方向性が、弱められていること、その表れとして「10年連続100万件」の個別労働相談になっている…そして、その中でUAゼンセンの組織拡大…地域合同労組に労働者が「行かないようにする」ため…があるということだ。
おりしも連合は、安倍政権が「働き方改革」でぶち上げた、「高度プロフェッショナル制度」=「残業代ゼロ」を容認すると報道されている。資本と闘わないで、ドンドン後退を続けてゆく連合も打倒し、あらたな闘う労働組合を構築していかなければならない。
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コメント
ある程度「わかりきったこと」とはいえ、連合(というよりゼンセン同盟)の「残業代ゼロ法案容認」は労働者への大大大裏切りであり、絶対に容認できません。
と同時に、左派系労組が労働者を組織できない理由も考えるべきでしょう。僕個人は組合内の人間関係と「党派性」に嫌気がさして個人参加可能な「中央派」系労組を抜けてしまった身分ですが、社会的に見れば「党派性」の問題はかなり大きくても、それだけが組織拡大できない理由にはならないのではないかと思います。日本における「労組組合」に対する「概念」そのものを変えないとならないのではないでしょうか?特に教育の場での労働三権の教え方を変えねばならないでしょう。
また、諸外国、特に韓国の民主労総に学ぶべきところも多々あるでしょう。
原則は「働く者・耕す者にこそ権利がある」ですね。
投稿: 常磐在来線主義者 | 2017年7月15日 (土) 18時29分
常磐線在来線主義者さん、コメントありがとうございます。
労働組合の再生について、党派云々というより、もっと左派の人がまじめに取り組まないとイケナイのだと思います。なにぶん「市民運動」に埋没しちゃってますからねぇ~
投稿: あるみさん | 2017年7月16日 (日) 16時43分