差止訴訟と埋立撤回の展望
27日の「辺野古を止める『ひとり』になろう」集会で、関西大学高作正博さんの講演「差止訴訟と埋立撤回の展望」を、手元のレジメとメモにそって紹介する。
今現在、辺野古の埋立て工事に対しては、沖縄県による差止訴訟が提起されているところである。それ以前は、公有水面埋立承認を取り消してしたが、最高裁で敗訴したため「取り消しの取り消し」が行われた。
行政行為の「取消」とは、行政行為によって法律関係が形成・消滅したとき、その行為に瑕疵があるので、これを取り消すことによって法律関係をもとに戻すことを言う…前知事の判断に瑕疵があったので、取り消したという論理だった。
「撤回」は、瑕疵なく成立した法律関係について、その後の事情により、その法律関係を存続させることが妥当でないということが生じたときに、この法律関係を消滅させる行政行為のこと。辺野古埋め立ての場合、建設反対の民意が明らかになり、かつ激しい反対運動が継続しているというのが「その後の事情」ということになるのだろう。
沖縄県が提起しているのは、岩礁破砕等行為の差し止め請求と、知事の許可なしに岩礁破砕等行為をしてはならないという仮処分命令を求める申し立てである。後者を申し立てておかないと、仮処分の判決が出る前に工事が進んでしまうこ。また、違法な工事でも一度完成してしまえば、裁判所も原状回復せよとは言わない可能性もあり、日本政府はそこまで考えた上での「確信犯」だと考えるべきである。
日本政府は、漁協により漁業権が放棄されたため、漁業権が存在せず、岩礁破砕等許可が切れても工事続行が可能である(沖縄県漁業調整規則第39条では、漁業権の設定されている漁場内において岩礁を破砕するのに知事の許可が必要とされている)。
それに対し沖縄県側は、漁業法第22条第1項により、漁業権の変更には都道府県知事の「免許」が必要で、漁協の放棄だけで漁業権は失効しない。規則第14条でも漁業の許可内容変更に知事の「許可」を要する…「免許」「許可」どちらも出されていない…そしてこれらが知事の権限とされているのは、公益の確保のためである。
埋立承認「撤回」をめぐって、「撤回すべきである」論は、根本的な工事差し止めには埋立承認の「撤回」しかなく、すぐにでも「撤回」しなければ工事が続行し、事実上埋立を容認することとなるというもの。
「撤回すべきでなない」論は、「撤回」をすれば、沖縄防衛局による審査請求・執行停止、また国による「撤回」取消の是正指示及び不作為違法確認訴訟の定期を誘発する。不作為違法確認訴訟になれば、再び「政治的判断」によろ沖縄県が敗訴するおそれが高い。最後の手段を失うことで、辺野古の埋立を止めることは不可能になるというものだ。
そこで第3の議論として、「撤回しない方がよい」論が提起される。これは、最後の手段(撤回)を残したまま闘争を続けることが可能となる。そのうえで、2018年1月名護市長選挙、2018年11月沖縄県知事選挙、2019年7月参議院議員選挙、2020年6月の沖縄県議会選挙等で、県内移設反対の民意を継続すべきである、選挙結果と市民による反基地運動との連動・拡大により勝利を目指すというものだ。
ここで市民運動の位置づけが大切になる。小林武「沖縄の平和的生存権」(「法学セミナー」751号(2017)8頁)に
「主権者国民・住民による政治運動(主権的権利の行使)」と「自治体の法的権限行使」との「両者の有機的結合・一体的共同の態勢を構築することが勝利のカギとなるが、やはり、民衆が行動する前者の政治活動こそ主戦場であるといえよう」
という文言があり、これを引用しながら、市民運動こそ「主」であると位置づけている。運動の中には、普天間をめぐる議論でも即時撤去、県外移設、独立論等様々あり、議論をすることの重要性と運動の対立・弱体化の危険性がある。自分の考えが絶対だ!というふうにはしない、それぞれに理屈はある…意見の違いを越えて共闘する逞しさをもとうではないか!と提起された。
埋立承認「撤回」については、知事は早急にやるべきという議論があるが、確かに裁判で負ければ工事が止まるのもたかだか1年ほど(「和解」から結審までの過程を参考)しかなく、「伝家の宝刀」がなくなればあとは行政として打つ手がなくなる…なるほど、第3の「撤回しない方がよい」まま、闘争を続けるというのが妥当なところなのかなぁ~というところである。
ではでは
| 固定リンク
「かくめいのための理論」カテゴリの記事
- 設計変更を許すな!奥間政則さんの学習会(2020.06.29)
- けんじと太郎でタヌキを追い出せ!(2020.06.18)
- BLACK LIVES MATTER”よりも”大切なこと(2020.06.14)
- コロナ禍での社会ヘゲモニーを握ろう!(2020.05.15)
- 憲法1条を守れば天皇制はなくなる?(2020.05.05)
コメント