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ナチスの「手口」と緊急事態条項…「主権独裁」と憲法制定権力

 ナチスの「手口」と緊急事態条項から…  そもそもワイマール憲法の第48条「大統領緊急令」に、ワイマール憲法自体を無効にするような力が与えられていたのだろうか?
 当時のドイツ法学では「憲法優位の大原則」が確立しておらず、憲法と法律は同等であるとされていた。このような憲法の位置づけは、主権者であり、憲法制定者でもあった君主・皇帝と、国民代表の議会が相互に牽制する中で発展してきた、19世紀以来のドイツ立憲主義の特徴でもあったのだ。
 また「独裁」ということを考えるにあたって「委任独裁」と「主権独裁」と言う言葉をおさえておく。これらの言葉はドイツの法学者で、初期のナチス政権にも協力したカール・シュミットの著書「独裁」(1921年)の議論に出てくるものだ。
 「委任独裁」とは、危機的状況に対応するため、一時的にある人物・集団に権力の集中を図るもので、危機的状況がなくなれば最終的に元の「立憲主義」体制に戻るものである。  それに対し「主権独裁」というのは、既存の立憲的な政治制度を離れて、新たな政治制度をつくりあげることを目的とするものだ。いわゆる「革命政権」が憲法を制定する過程で現れるような「独裁」であり、シュミット的に言えば「憲法制定権力」が裸の形であわれわたものだそうな。  
 「憲法制定権力」と言う概念は、フランス革命時の「第三身分とは何か」(1789年)というパンフレットに初めて打ち出されたものである。憲法がない当時のフランスで、憲法を制定できるのは「第三身分」しかないというものである。ここで「憲法制定権力」はいったん憲法が制定されてしまえばその背後に姿を隠し、凍結されてしまうハズであるのだが、シュミットによれば「主権独裁」は、憲法典が存在するにもかかわらず、その背後にいる「憲法制定権力」が表舞台に姿を現して力を発揮するのだそうだ。  憲法典が自らを否定する「主権独裁」を明記するハズはない…「大統領緊急令」や「授権法」に示されている行政府の「独裁」は、「委任独裁」を想定しているにもかかわらず、憲法典にその旨きちんと書き込まれていないと、「主権独裁」の手段になり得るのである。

 ではヒトラーが政権を掌握した後のドイツは、「革命情況」であったのか?先にみたとおり、ヒトラー政権はドイツ国民から絶大な支持を得ていたわけではない。ただ議会が力を失い「大統領緊急令」が頻発される一方で、ナチスや共産党による街頭での行動、ぶつかり合いも起こっていた…世界恐慌によるドイツ帝国主義の危機は、「革命情況」であったとも言える。このような中、一方のナチス・ヒトラー側が「大統領緊急令」を発動する権限を持つことが出来た→これを使って憲法をすっ飛ばし、ナチスによる「国民革命」(ナチスイデオロギーを実践するための国家改造)を行った…と言える。

 なお蛇足であるが、ナチスが「主権独裁」を行使したからといって、ドイツが「無法地帯」になったわけではない。「主権独裁」が行使されている状況は、憲法制定権力がホッブズの言うところの「自然状態」にあるという…で、「万人の万人による闘争」となっていたのかというと、確かにナチスは共産党など反対する勢力に対し、憲法秩序も無視して国家暴力で襲い掛かっていたわけであるが、経済分野では通常通り法律が運用されていたのである。

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