なぜ「コンクリートの寿命は60年」なのか?
先日、コンクリートの建物はそれなりに持つの中で、”「鉄筋コンクリート製の建物の寿命は、60年」ということになっている”と書いた。実はこの60年という数字、税法で決まっている法定耐用年数のこと。現在、鉄筋コンクリート製の建物の法定耐用年数は47年であるが、1998年に法律が改正されるまでは、60年であった。
では、この60年という数字が、どこから出てきたのか?というと…
コンクリートの「中性化」速度である。
コンクリートはアルカリ性に保たれており、そのおかげで内部の鉄筋が錆びない。アルカリ性によって鉄筋表面に「不導体被膜」という、厚さ20~60オングルストームの薄い酸化膜ができる。これが鉄筋を保護している。
ところが空気中の二酸化炭素により、コンクリートは表面からアルカリ性が「中和」されてゆく。具体的にはコンクリートの細孔に含まれる水溶液がアルカリ性を示しているのだが、空気中の二酸化炭素が溶け込むことにより、細孔溶液がアルカリ性から中性になる。これをコンクリートの中性化とよんでいる。
コンクリートが中性化すると、鉄筋表面にある不導体被膜は破壊される。そこに水や酸素などの鉄筋劣化因子が侵入してくると、鉄筋が錆びてくる。鉄筋が錆びると体積が増え、膨張するので、その影響により鉄筋の外側のコンクリートが剥がれ落ちたりする。また鉄筋が完全に錆びてしまうと、鉄筋そのものが無くなってしまうわけだから、鉄筋コンクリート構造物としての機能を失うことになる。
中性化はコンクリート表面から進んでゆく…年月が経つほど深い部分まで二酸化炭素が入り込むことになる…でもって、おおむね60年ぐらいたつと、中性化が標準的な鉄筋コンクリートにおいて、鉄筋が埋まっている深さ3㎝ぐらいのところまで進む…だからそこを「コンクリートの寿命」としたのである。
もちろんコンクリートが中性化したからといって、直ちに鉄筋が錆び、コンクリートが剥がれ落ちたり、崩壊するということはない。中性化が鉄筋の位置に達したとしても、酸素や水分が供給されないと、鉄筋は錆びない。また全てのコンクリート構造物が、一律に60年経つと3㎝の深さまで中性化するわけでもない。作られたコンクリートの「品質」によりけりで、具体的には固くて緻密なコンクリートが出来ていれば、二酸化炭素や水などの劣化因子が侵入しにくくなるので、中性化速度も遅く、鉄筋が錆びるのも遅くなる。
また先の記事でも触れたが、コンクリート表面に塗装を行い、二酸化炭素の進入を防ぐことで、中性化を遅らせることが出来る。塗装も、普通の塗料のようにコンクリート表面に塗膜を形成するものから、コンクリートの内部に浸透し、化学反応をおこしてコンクリート表面を緻密にするようなモノもある。後者のようなコンクリート保護材料は、含浸材ということもある。
一旦中性化したコンクリートは、自然状態では元に戻ることはない。ただし、電気化学的な力を加えて、コンクリートにアルカリ性を再度付与することが可能である。コンクリート表面に、炭酸ナトリウム等の電解質溶液と陽極材を配置し、内部の鉄筋に電線をつないでマイナス側につないで5~50Vの電圧をかけ、1A/㎡の電流を1~2週間程度流すのだ。こうすると鉄筋から表面にかけてのコンクリートが再度アルカリ性になる。ただし工事にはそれなりの設備が必要になる。大坂城の天守閣は、1996年の改修工事でこの「再アルカリ化工法」が行われている。
とまぁ、こんな具合である
| 固定リンク
「技術屋さんのお話」カテゴリの記事
- 辺野古、護岸工事が打ち切られる⁉(2020.04.05)
- コンクリート船を見に行く闘争(2020.04.03)
- 辺野古ではまともなコンクリートを打つ気がない!(2019.11.27)
- エコで資源利用効率が低下する話(2019.10.04)
- 三陸の「復興」もしくは国土強靭化を見て…(2019.09.17)
コメント