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「永続敗戦」体制は「戦後の国体」

 

24日に講演集会がある こともあって、「国体論 菊と星条旗」(集英社新書 2018年4月)を読んだ。「敗戦」を受け入れられず、ひたすらアメリカに「従属」する戦後日本の体制を「永続敗戦論」で説明した白井氏が、その体制を「国体」概念を使って読み解こうとしたもので、白井氏は「現代日本の入り込んだ奇怪な逼塞状態を分析・説明することのできる唯一の概念が『国体』である」(p4)としている。

_000005  「国体」とは戦前の「天皇を頂点とした政体・体制」が不可侵であり、絶対であるという日本でしか通用しないイデオロギーである。「国体」は敗戦によって表向きは「解体」されたハズだ。だが白井氏は「「『国体』が戦前日本と戦後日本を貫通する『何か』を指し示しうる概念であるのは、戦前と戦後を分かつ1945年の敗戦に伴ってもたらされた社会改革によって、『国体』は表面的には廃絶されたにもかかわらず、実は再編されたかたちで生き残った」(p4)とする。天皇の上に「アメリカ」が頂点に立っている「永続敗戦」体制…それについて疑問に思うことも、否定することもできない体制が「戦後の国体」であるとしている。
 なるほど、敗戦時に日本が連合国に要求した唯一の条件は「国体護持」である。すなわち、天皇を頂点とした絶対不可侵の体制を変更しないことだ。占領政策を円滑に進めるため、マッカーサー達占領軍、そして米国中枢は最終的にこれを認めた。「天皇の軍隊」を解体し、統治大権を放棄する代わりに「象徴天皇制」として政治には一切かかわらず権威のみ保持する形をとることで、「国体」はフルモデルチェンジをして生き延びたのである。  
占領期にアメリカは天皇制を利用することで占領政策を円滑に進め、民主主義を導入することに成功したわけだが、この過程で「天皇を理解し敬意をもったアメリカ」(p127)という神話(マッカーサーと天皇の会見等)が生まれ、「この観念に。今日奇怪と評するほかならないものとなり果てた対米従属の特殊性の原点がある」「対米従属的な国家は世界中に無数に存在するが、『アメリカは我が国を愛してくれているから従属するのだ(だからこれは従属ではない)』などという観念を抱きながら従属している国・国民など、ただのひとつもあるまい。まさにここに『我が国体の万邦無比たる所以』がある。この観念によって、現に従属しているという事実が正当化されるだけでなく、その状態が永久化される。」(p127~128)と白井氏は「永続敗戦」体制の成り立ちを説いている。「国体の本義(1937年 文部省編)」において「大日本帝国は万世一系の家長とその赤子が睦みあって構成される『永遠の家族』とされ」(p252)たことで、支配であることが否認されたのが「国体」概念であるから、被支配・従属関係が否認される「永続敗戦」体制もまた、「国体」なのであろう。
_000006  なお白井氏は「われわれが何によって支配されているか意識せず、支配されていることを否認し続けるならば、永久に知恵は始まらない。今日、日本人の政治意識・社会意識が総じてますます幼稚化していること(=知的劣化)の根源は、ここにあるだろう。」「戦前のデモクラシーの限界が明治憲法レジームによって規定された天皇制であったとすれば、戦後のデモクラシーもまたその後継者によって限界を画されている。いずれの時代にあっても『国体』が国民の政治的主体化を阻害するのである。」(p130)と説いている。また白井氏はアメリカの歴史家のジョン・ダワーが、このような極めて特殊な外見的民主主義体制の成り立ちを「天皇制民主主義」と呼んでいることを紹介し、その上で成立している現在日本の平和主義は「天皇制平和主義」であるとしている。
 なお「対米従属」日米安保体制は、軍隊を解体したうえで、「国体への脅威」である「共産主義」(実態はソ連を中心とするスターリン主義だが)から「国体」を守り抜くための体制であり、その中でマッカーサーはある意味「勤王の士」あるいは「征夷大将軍」であったと白井氏は説く。天皇制とそれを守る暴力装置、軍隊との関係について白井氏はあまり展開していないが、古代律令制の時期と戦前の「天皇の軍隊」があった時期を除き、天皇は独自の暴力装置・軍を持たず、一番強いヤツに征夷大将軍などの「お墨付き」を与え、それに依拠することで自らを守って来た歴史的経緯がある。戦後一番強いヤツは、「天皇の軍隊」を打ち負かしたアメリカ軍というわけだ。このへんはこのブログでも過去に展開している。

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