新・日本の階級社会(その3)
先ほどの記事中「父親が資本家階級である人が、資本家階級では28.5%存在する。」と書いた…階級は「固定化」しているのだろうか?
父親の所属階級からみた本人の大学進学率を調べると、資本家階級と新中間階級の子どもは大学に進学しやすく、労働者階級と旧中間階級の子どもは進学しにくいという事は分かる。
各階級の世代間移動…父親の階級と本人の階級がどう変わっていくか?ということを調べると、資本家階級出身は資本家階級になりやすく、移動も新中間階級が多い傾向がある、新中間階級は新中間階級になりやすい、労働者階級は資本家階級や旧中間階級への移動は少ない、旧中間階級にとどまる人は少ない(そもそも旧中間階級自体が減少している)ということが分かる。
ここで年代ごとに、各階級の世代間移動について「非移動率」(父親と同じ階級に属している人の比率)、「世襲率」(ある階級の出身者のうち、出身階級と同じ階級に所属している人の比率)そして「オッズ比」(「階級Aの出身者は、それ以外の人に比べてどれくらい階級Aになりやすいか」世襲の起こりやすさの指標、差がない場合が1、世襲的な傾向が強まるほど数値が大きくなる)の変化を見てみる。
世襲率は階級によって違っている。旧中間階級は急速に低下し、資本家階級と労働者階級は、近年になって世代的な継承性を強めた。新中間階級は複雑な動きをみせている。
旧中間階級出身者は、相対的に旧中間階級になりやすく、資本家階級と労働者階級の傾向は似ている。どの階級も近年は世代的な継承性を強めて固定化しているのに対し、新中間階級は継承性を弱めている。資本家階級出身者がますます資本家階級になりやすくなった反面、被雇用者の父親をもつ人々が参入できなくなった 資本家階級は労働者階級や旧中間階級への移動が起こりにくくなった。労働者階級出身者が労働者階級に所属する傾向を強め、旧中間階級が労働者階級になりにくくなった 経験を積んでから独立し旧中間階級、あるいは資本家階級になる可能性が閉ざされてきている。
資本家階級の固定化は進んでいるが、単純に「家業を継ぐ」などという形で世襲されているわけではない。資本家階級出身者でも、初職は労働者階級であるという人はけっこういる。大半は親の会社と別の会社やオフィスで経験を積んでから、経営者になっているということだ。
一方で、新中間階級出身者が新中間階級になりにくくなった。これは「就職氷河期」の影響も大きい。かつてであれば、大卒者の多くは新中間階級になることができたが、初職時点でアンダークラスとなった若者が新中間階級に移動することは難しく、就職氷河期は新中間階級出身の若者たちに、より深刻な影響を及ぼしたといえる。もっとも新中間階級への「なりにくさ」は、就職氷河期の一時的な現象かは分からず、新中間階級も「固定化」するか、あるいは縮小してゆくのかは不明なところがある。
以上の調査・考察は男性についてのもので、女性の「階級間移動」は男性のそれとはかなり異なる。これは男性と女性で階級構成が異なっているからだ。資本家階級と旧中間階級は男性が多く、男性事務職を新中間階級としているので、この階級も男性が多い。よって女性の階級構成は父親と大きく異なるので、女性のほうが世代間移動が多くなる。また専業主婦だったりパート主婦だったりするケースが多いので、本人の階級所属がなかったり、階級所属があったとしても、生活水準や意識にあまり影響しない。少なくとも資本家階級以外では、女性の階級所属は父親の階級所属とあまり関係がない。また女性がどの階級の夫をもつかということは、父親の所属階級と弱い関係しかもたないことは分かる。
女性は自分の所属階級とともに、あるいはそれ以上に配偶者の階級所属の影響をうける。女性内部の格差は、配偶者の階級によって、配偶者のいないことによっても影響される。そこで本書は一章を設けて(第五章 女たちの階級社会)、配偶者との組み合わせで女性の階級を分類、分析している。本人を5つの階級、プラスパート主婦(非正規労働者で配偶者あり)と無職の7つ、配偶者が所属する5階級+配偶者なしの6つ、かけて42のグループが出来るが、パート主婦には「配偶者なし」はおらず、本人がアンダークラスの場合は自動的に「配偶者なし」のみになるので実質は30のグループに分けることができる。そのうちデータが多い17のグループについて、ざっと分析されているが、ここでは紹介しない。(続く)
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