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新・日本の階級社会(その1)

 「新・日本の階級社会」(橋本健二 講談社現代新書 2018年1月)が話題になっているので、読んでみた。日本では格差が拡大し、新たな「階級社会」が到来した…筆者はそのアウトラインを語り、対応の処方箋を示すものである。ただ本書は、様々なデータを分析・加工して表・グラフにした結果を本文で語るという形をとってるため、なかなか「レビュー」がやりにくい。なるべく表やグラフを使わないで話を進めて行こうと思うが、細かな分析の手続きや図表は本書を購入して確認してほしい。

_0001  ジニ係数、規模別・産業別・男女別賃金格差・生活保護率の指標変化から「日本の格差」を眺めてみると、1950~60年代は生活保護率を除いて格差を示す指標が増大(格差拡大)していたが、その後格差は縮まり、1975~80年代に一旦底を打った後、90年代には再び格差が拡大してきた。

 一方で「一億総中流」と言われてきたが、出どころは総理府(現「内閣府」)が実施してきた世論調査「国民生活に関する世論調査」である。その中で「お宅の生活の程度は、世間一般からみて、どうですか」という質問に対し、「上」「中の上」「中の中」「中の下」「下」「わからない」の答えが用意されていた…ここで3つの「中」を合計すれば、当然「中流」の比率が高くなる…「中の~」と答えた人は1975年で90.7%、2017年で92.4%だそうな。当然、こういった「階級帰属意識」と階級帰属の「実態」は違っている。
 だがこの調査結果も見方を変えて、「上」「中の上」を「人並みより上」、「中」を「人並み程度」、「中の下」「下」を「人並みより下」として集計しなおしてみると、79年までは「人並みより下」が減少して「人並み程度」が増加し、90年代は「人並より上」が増加してきている。さらに2000年代は「人並みより下」と「人並みより上」が増加する分極化が起こっている。また、ジニ係数が上がれば「人並みより上」であると感じる人が増えている。
 さらに所得階層別(富裕層か貧困層か)に「階級帰属意識(人並みより上か下か)」を聞くと、年代が過ぎるごとに富裕層が自分を「人並みより上」であると認識する率が高くなり、貧困層が「人並みより上」であると認識する率が低くなる。すなわち、「一億総中流」と言われていた時代は、豊かな人々は自分の豊かさを、貧しい人々は自分の貧しさをよく分かっていなかったのだが、時代が進み「格差社会」が進むにつれ、人はそれぞれを明確に意識するようになったということが言える。
 また「自民党支持率」を調べてみると、富裕層で支持率は高く、所得が下がるにしたがって支持率が下がっていく。別途詳細にみていくが、自民党はその支持基盤が特権階級や富裕層に特化した「階級政党」になったとも言える。とはいえ自民党と正反対の位置に、貧困層や相対的貧困層の支持を集める単一の政党があるわけではないので、日本の政治が階級政治の性格を強めたとまではいえない…ということだそうな。

 それでは日本ではどのような「階級構造」をとっているのだろうか?カール・マルクスの階級理論から出発し、何人かの理論家たちがつくりあげたものが、「資本家階級」「新中間階級」「労働者階級」「旧中間階級」の四階級分類である。(マルクスの階級理論を説明するため、本書では「資本主義経済の基本構造」の説明も行われている…生産手段を所有する資本家階級と、それを所有せず労働力を「商品」として売らなければならない労働者階級との間で、労働力の価値vとそれに相当する賃金、および剰余価値sのやりとり関係が説明されている)四階級分類を図示すると、旧中間階級は資本家階級に雇われて生産活動を行っているわけではないので、そこが横にはみ出た図表2-3のような階級構造になるだろう。
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 さらに正規雇用が減少して非正規労働者が増加している。非正規労働者は雇用が不安定で、賃金も正規労働者より低く、貧困率も高い。非正規労働者が従来の労働者階級とも異質な、ひとつの下層階級を構成しはじめている。これを「アンダークラス」と呼ぶことにした。かつての労働者階級内部に巨大な分断線が形成され、従来の四階級に加えて、アンダークラスという新しい「階級」を含む五階級構造へと転換した、これが日本が直面する「新しい階級社会」の姿である…ということだ。(続く)

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