文京洙さん講演集会(前篇)
12月16日(日)吹田市メイシアターにて「東アジアの平和を創る 12・16講演集会」が開かれたので参加してきた。講師は韓国現代史が専門で、立命館大学国際関係学部特任教授の文京洙(ムンギョンス)さんである。
はじめに文京洙さんは、中国や日本では現在の朝鮮半島情勢について悲観的な見方をしているが、韓国では肯定的・楽観的に捉えられている、自身もまた現在の情勢を肯定的に捉えており、非常に画期的で後戻りできない過程に入ったと認識されていることを述べられた。その後、第二次大戦後の歴史をおさらいし、朝鮮半島の分断過程や「日韓条約」について説明される。1950年まで南北関係は流動的であり、中国革命に代表される東アジア革命情勢の一つとしての朝鮮戦争の「結果」によって分断が固定化されたこと、その過程において韓国では李承晩の権力基盤が弱かったため「親日派(日本の植民地支配に協力した者)」にすり寄らざるを得なかったこと、日本を占領した連合国も植民地主義に対する認識が甘かったことから、日本もまた植民地支配や植民地意識をきちんと反省することなく体制が固定化されたことを説明された。日韓条約は、東アジアの冷戦体制が構築され、アメリカがベトナム戦争に向かう中、アメリカの圧力によって日韓の持つ歴史問題・認識が一致しないまま締結されたもので、例えばその第2条において日本側は「1910年8月22日以前に大日本帝国と大韓民国との間で締結されたすべての条約及び協定は、もはや無効である」と、植民地支配そのものは「有効」であるとしているのに対し、韓国側は一貫して植民地支配そのものは「当初から無効」であるという違いがある。
朝鮮戦争後、韓国ではあらゆる運動が壊滅したが、1960年の4・19学生革命をはじめ、70年代に軍事独裁政権下で民主化運動が台頭しはじめる。80年代には光州事件を契機とした社会運動の急進化し、「運動圏」といわれる層が運動を担った。経済が発展して中産層が台頭し、1987年の6月民主抗争によって民主化宣言が行われ、新憲法が制定された。90年代は「運動圏」の「巨大談論(日本でいうところの「大きな物語」、革命や統一を目指す)」型の運動・思潮が退潮し、新しい社会運動としての市民運動が盛んになる。「参与連帯」もこのような中から生まれた。市民運動の基本的な性格は、権力・経済システムの監視や、異議申し立てである。1997年の経済危機から、韓国はグローバリズムに流れ込む。この中で盧武鉉政権が「参与政府」と自ら名乗り、国民のより広い政治参加が促されるとともに、中産層が崩壊することで既存の市民運動は危機を迎えるが、試行錯誤の中で異議申し立て型の運動から行政協力型の運動が生まれて来る。このように韓国では歴史と共に多様な運動の蓄積があり、お互いに足を引っ張り合うことはあるものの、その蓄積の集約が「ろうそく革命」であるとのことだ。
他方、日本では植民地主義の克服として、90年代には日本の平和主義の高揚が、河野談話や村山談話のような「痛切な反省」「心からのお詫び」といった日韓条約の欠陥を補うような公式見解を生み出したが、ピークは村山談話であり、その後バックラッシュに見舞われる。「新しい教科書をつくる会」などの歴史修正主義や国家主義が台頭し、2016年には参議院でも改憲勢力が3分の2以上を占めるようになったと、文京洙さんは述べた。
続いて「ろうそく革命」の背景等についての説明…保守政権10年の「積弊」、市民社会との疎通を欠いた権威主義や無責任、縁故主義が蔓延し、社会的公正やコミュニケーション、常識、人命が軽視されるようになった(その最大のものがセウォル号事件)。またグローバル化により格差や競争圧力が強まり、「ヘル朝鮮」と呼ばれる程、経済や雇用環境が悪化したこともある。「ろうそく革命」の直接の契機は、保守の「朝鮮日報」が崔順実ゲートの報道を行ったことである。保守政治・財閥・保守言論の三角同盟に亀裂が入ったのだ。そこに革新の「ハンギョレ」が加わり、SNSによって拡散された。伝統的で垂直的な既存メディアと、現代的で水平的なSNSの協働である。韓国には先に述べた様に、1960年代以来の多様で多層的な社会運動の蓄積があり、若い世代に親世代が持っていた社会正義への希求が継承されていたことから、全世代の多様な階層が参加する「ろうそくデモ」へと発展し、2017年3月10日に朴大統領は罷免されるのである。(つづく)
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