「そろそろ左派は経済を語ろう レフト3.0の政治経済学」
薔薇マークキャンペーンの理論的支柱でもある、「そろそろ左派は経済を語ろう レフト3.0の経済学」(ブレイディみかこ×松尾匡×北田暁大の対談本 亜紀書房2018年5月)を読んでみた。松尾匡ら著者らが主張していることは、「不況期は財政出動によって需要を喚起せよ」「そのための財源は“金融緩和”(国債を中央銀行が引き受ける)でねん出する」というものである。これは「ケインジアン」の主張で、社会主義・共産主義を目指す「左翼」からみれば「異端」なのだが、米国や欧州の「左派」…アメリカ共和党のサンダースやイギリス労働党コービン、スペインの左派政党「ポデモス」なんか(「緊縮」を掲げる新自由主義者からは「極左」扱いされる)…の理論はむしろこれである。彼らが選挙で一定の支持を受け、政権担当も視野に入れられる中、日本の「左派」は何やっとるの?というのも本書の主張である。


その前に、本書における「レフト3.0」とは何か?マルクス=レーニン主義や「社会民主主義」を掲げ、国家行政主導で「大きな政府」を志向し、「労働者階級」を基盤としている旧来の共産党・社会党のような左翼勢力が「レフト1.0」。それに対する批判…中央集権的な組織の在り方、マイノリティーやジェンダーの問題への無頓着さ等…を経て、80年代から出てきた個人主義的で多様な運動、あり方を尊重する現代左派が「レフト2.0」だ。「レフト2.0」は「小さな政府」を志向し、労働者階級には基盤を置かず、幅広い「市民」に基盤を置く。急進的なエコロジー運動から米民主党「リベラル」、英国労働党ブレアの「第三の道」を掲げるような勢力も「レフト2.0」に含まれる。ちなみに60年代後半から70年代の「新左翼運動」は「レフト1.5」ぐらいで、その問題提起は1.0から2.0への転換を促した。この「レフト2.0」が「アイデンティティポリティクス(マイノリティーの解放を求める市民運動)」などに特化するようになって「下部構造(経済)」を忘れるようになる一方で、「小さな政府」志向は新自由主義とも親和性があった。そのため新自由主義が取る「緊縮」政策を根本から批判できず、経済成長や雇用拡大にも無頓着で格差拡大・貧困が増大することに対応できなかった。「レフト2.0」を支えてきた中間層が没落した一方で、マジョリティーである労働者階級がないがしろにされていることの反省から、欧米で出てきた「反緊縮運動」(一見「レフト1.0」への回帰に見える)が、「レフト1.0」に対する批判を乗り越えた上で、新たにバージョンアップを目指すのが「レフト3.0」と位置付けられるのだそうな。
で、本書は「ケインズ政策のススメ」となっている。供給サイドから経済を考えると、不況などで経済が停滞していても「生産性向上」(当然、「リストラ」とかが起こる)などの経済政策が取られる。しかしケインズは「需要」面から経済をみた人である。総需要はC+I+G+(Ex-In)で表される…Cは消費、Iは投資、Gは政府支出、Exは輸出、Inは輸入である。「ケインズの言うように、不況の原因は総需要が不足している状態だとすると、その解決策は政府・中央銀行が金融緩和(不況の際に中央銀行が国債を買い上げたり、金利を引き下げたりして、世の中に出回るお金をふやすこと)をして、企業が設備投資(I)や労働者の雇用のためのお金を借りやすくしたり、公共事業などで政府支出(G)を増やして社会全体の需要を喚起すべきだということになります。金融緩和で金利が下がれば、その分自国通貨の価値が減価されますから、輸出(Ex)も増加します。そうして次第に景気が回復して、失業が減っていけば人びとの消費(C)も大きくなる。このように市場に介入して、人びとのものを買う力、総需要を引き上げてゆく経済政策が、いわゆる「ケインズ主義政策」です。」(p36)
経済には供給能力という「天井」があるのだが、その天井まで需要がないと不況になる…だからその天井まで需要を増やしてやる。そのため政府支出を行なうが、財源として金融緩和で無からお金をつくる政策をとっても、供給の天井まで需要が届かないかぎり、インフレにはならない。「ハイパーインフレ」なんぞは、戦争等で生産が破壊されている時や、外貨不足で輸入が出来ない「供給力」不足の時に起こっている。従ってインフレの兆し(例えば物価上昇率2%)が見えた段階で、金融緩和をやめれば問題がない。ただ金融緩和で「無からつくったお金」を子育て支援や福祉などの将来減らすことが出来ないことに使うシステムを作ってしまうと、デフレ脱却した後に持続しない。そこで所得税の累進性強化や法人税増税などの富裕層から税金を取る仕組みを同時につくっておく、デフレ時の増税分は「つくったお金」で補助金や給付金等にして還付し、デフレ脱却時にそれらを廃止するという政策をとればよい。これが松尾氏の提唱する経済政策である。
で、本書は「ケインズ政策のススメ」となっている。供給サイドから経済を考えると、不況などで経済が停滞していても「生産性向上」(当然、「リストラ」とかが起こる)などの経済政策が取られる。しかしケインズは「需要」面から経済をみた人である。総需要はC+I+G+(Ex-In)で表される…Cは消費、Iは投資、Gは政府支出、Exは輸出、Inは輸入である。「ケインズの言うように、不況の原因は総需要が不足している状態だとすると、その解決策は政府・中央銀行が金融緩和(不況の際に中央銀行が国債を買い上げたり、金利を引き下げたりして、世の中に出回るお金をふやすこと)をして、企業が設備投資(I)や労働者の雇用のためのお金を借りやすくしたり、公共事業などで政府支出(G)を増やして社会全体の需要を喚起すべきだということになります。金融緩和で金利が下がれば、その分自国通貨の価値が減価されますから、輸出(Ex)も増加します。そうして次第に景気が回復して、失業が減っていけば人びとの消費(C)も大きくなる。このように市場に介入して、人びとのものを買う力、総需要を引き上げてゆく経済政策が、いわゆる「ケインズ主義政策」です。」(p36)
経済には供給能力という「天井」があるのだが、その天井まで需要がないと不況になる…だからその天井まで需要を増やしてやる。そのため政府支出を行なうが、財源として金融緩和で無からお金をつくる政策をとっても、供給の天井まで需要が届かないかぎり、インフレにはならない。「ハイパーインフレ」なんぞは、戦争等で生産が破壊されている時や、外貨不足で輸入が出来ない「供給力」不足の時に起こっている。従ってインフレの兆し(例えば物価上昇率2%)が見えた段階で、金融緩和をやめれば問題がない。ただ金融緩和で「無からつくったお金」を子育て支援や福祉などの将来減らすことが出来ないことに使うシステムを作ってしまうと、デフレ脱却した後に持続しない。そこで所得税の累進性強化や法人税増税などの富裕層から税金を取る仕組みを同時につくっておく、デフレ時の増税分は「つくったお金」で補助金や給付金等にして還付し、デフレ脱却時にそれらを廃止するという政策をとればよい。これが松尾氏の提唱する経済政策である。
松尾氏は「数理マルクス経済」というのをやってきたマルクス経済学の人なのだが、本書ではほぼケインズ政策が展開されている。よって松尾氏がケインジアンに「転向」していると考えれば、腹も立たないだろう🍺
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