「脱成長」でやっぱり正しい!?
ようやく「成長」には2つのタイプがある記事のつづき…おさらいしておこう。
「僕はこの二つの経済成長の関係を、桶の中に入った水に例えたりもしています。桶の中に水(労働者)が入っているとして、その水がめいっぱい入っている(完全雇用)とみなして桶のサイズそのものを拡大しようとするのが天井の成長を重視する経済政策で、これに対して桶に水がぜんぜんはいっていないから(不完全雇用)、景気対策をして桶の中に水をもっと注ごうとするのが短期の成長を重視する経済政策です。」(p41₋42)
これを受けて、ブレイディ氏がこう続けている…
「その喩だと、デフレ不況下で「経済成長はもういらない」といのは、「桶に水がはいっていないから水を注ごう」という時に、「これ以上大きな桶はいらない」と言っているような感じになりますよね。そうすると、なんだかトンチンカンな会話になっちゃう。でも、そんな状況で「経済成長はもういらない」なんて言ったら、それこそスーサイダル(自滅的)だと思います。」(p42)
まあ、言いたいことは分かるのだが、逆に松尾氏の喩は、左派が「脱経済成長」を言っていたのはある意味、正しかったことを証明している。
そりゃそうだろう…桶に水が足りていない(需要不足)の時に、「サプライサイド」の経済成長を求めて桶をでっかくした場合、出来上がったデカい桶には、よりちょっぴりしか水が入っていないことになる。より悲惨になっちゃうのだよ。
デフレ不況期に、高度経済成長期と同じようなインフラ整備や原発の増設、さらには「構造改革」なんぞをやれば、よけい供給能力が上がる…だが、その供給を満たす「需要」が増えなければ、よけい不況になるというわけだ。
だからこの「失われた20年」の間に、サプライサイドの経済成長…一般論的な開発志向の、松尾氏のいう「長期の経済成長」をもとめないことは、正しいことだったのである。
で、左派がホントに言ってきたことは何か…それは「脱成長」ではなく、「成長の質を変える」 ことである。抜き書きすると…
基本的には「社会のあり方を変えて、成長の質(中身)を変えよう」ということである…例えば原子力を使って電力を作るのでは無く、自然エネルギーを使おう…ということだ。(ただし私は別の意味で自然エネルギーには反対である…分かりやすい例示として挙げている)原子力をガンガン使うシステムで「成長」するモデルがこれまで評価されていた。その指標でみると、自然エネルギーを使った場合のモデルでは成長が「緩やかに」あるいは「減少」して見える。しかしそれでも社会は運営され得るのだということだ。(ただし「自然エネルギー」に関して、今の脱原発主流は「自然エネルギーのほうが雇用も増え、経済成長する」というロジックを使っている)
さて、少子高齢化でかつ「移民」を導入せず人口が減少する社会モデルを考えるにあたって、「社会の組みなおし」が必要になる。なぜならこれまでの社会は人口が右肩上がりであることを前提に組まれていたからだ。社会を組みなおすにあたっては、当然「リストラ」される産業・部門も出て来る…住宅建設なんか、そのいい事例だ。新規の住宅はもうガンガン建つことはなく、これまであるものをリフォーム・リユースしてゆくことが求められる。あるいはぶっ壊して「更地」にする需要だってあるだろう。こういった産業の「組みなおし」の中で「成長の質」は変わる…それだけだ。組みなおしをやっている段階で、かなり資源や労働力を使うことになるので、成長はそれなりに起こる…実は「脱成長」もそうゆうことである。産業・経済構造を変える中で、成長は起こるから、「脱成長」をやる=「衰退」し、「平等に貧しくなる」ということではない。
社会の「組みなおし」を行うにあたって、それなりの「需要」は出来る…従って「桶の水(雇用)」もそれなりに増えるのだ。
もちろん、旧来型の「成長」を求めて、例えば新幹線やリニア、高速道路や架橋(「忖度道路」と呼ばれる下関北九州道路なんかもそう)をガンガン整備する方法でも、それなりに雇用は生む…桶の水は増えるだろう。だが、それは持続可能ではないですよ…と言って来たわけだ。
もっとも、松尾氏らは著書で旧来型の「成長」は求めず、カネを使うところを変えよう❗と言っている。だから本質的なところでは、主張は変わらないですよ…ということが言いたいのである。
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