なぜ大阪で維新が強いか?の論考紹介
国政で維新は退潮しているが(とはいえ全国の人は油断してはいけない)、相変わらず大阪では維新勢力が強い…この理由として、興味深い論考がHARBOR BUSINESS Online(ハーバー・ビジネス・オンライン)に掲載された。4月11日掲載の誰が「維新」を支持したか―大阪・首長ダブル選挙の光景から である。本記事は「誰が「橋下徹」をつくったか――大阪都構想とメディアの迷走」(2015年11月 140B)を著した松本創氏によるものだ。
松本氏はW選挙で維新の街頭演説を聞く人びとを見たり、意見を聞いたりして「橋下徹の登場に熱狂し、敵をぶった斬る攻撃的な言動に拍手喝采を送っていた聴衆はもういない。」「演説に対する反応や短い立ち話から、彼らが最も期待しているのは「大阪を成長させる経済浮揚策」なのだろうと感じた。それは市や区など狭い地域単位の利益誘導ではなく、個々人の賃金や税金に直結する話でもない。大阪府域全体に利益をもたらし、活性化させる政党として、さらに言えば、日本の中での大阪の都市格や存在感を復権させる牽引役として、彼らは維新を評価しているのではないか」と述べる。橋下が維新を起ち上げた当初のあり方と変わり、維新も聴衆も穏健になった、質が変わったようだ。その上で「維新は確実に大阪に定着し、「市民党」となった感がある。」と述べている。 そしてW選挙における自民党大阪府連の対応のまずさ(維新の躍進はこの敵失に助けられた面もある)に触れた後、「維新支持の分析 ポピュリズムか、有権者の合理性か」(有斐閣 2018年12月 善教将大・関西学院大学准教授)を紹介する形で「なぜ維新は勝ち続けるのか。それは『大阪』の利益の代表者だという政党ラベル(ブランドイメージのようなものか)を獲得し、有権者もそこに期待を寄せたからだという。」「重要なのは、ここで言う『大阪』とは、大阪市という行政区域に限定されない『抽象的な都市空間』を指していることだ。大阪の有権者は、個々人の地元という狭い範囲の利益ではなく、より集合的な『大阪』の利益を求め、政党ラベルを手掛かりに、自律的かつ合理的に維新を選択した、というのである」と述べる。「より集合的な『大阪』の利益」を「大阪ナショナリズム」と呼ぶならば、維新は「大阪ナショナリズム」を基盤に置く地域政党として自らを確立し、それを大阪、関西の人が一定支持していることが浮かび上がる。
このことを念頭に、衆議院大阪12区補欠選挙における維新の街頭演説をチェックしてみよう…YouTubeを検索すればいくらでもヒットするが、1~2個みれば十分だ…自民党批判、他党派批判そして「既得権益批判」があるが、相手を完膚なきまで叩き潰そうという激しさは見られない。既得権益批判について、批判対象は「(改革をやらない)議員集団」というぼんやりしたもので、維新発足当初における公務員や行政という身近で目につきやすいものではない。国政選挙であるので「大阪ナショナリズム(おそらく万博や空前のインバウンド需要)」についてはあまり述べられないが、それでも「政党の本拠地を大阪においているのは維新だけ」、あるいは大阪で「改革」が進んでいることを取り上げ「大阪ナショナリズム」をくすぐっている。その上で「教育無償化」を説き、自民党の(改革や改憲の)背中を押す「ダイナマイト」になると訴えている。一種デマゴギーも使うような維新的手法は残っているものの、演説の勢いもいいので、なるほど自民党にちょっとお灸を据えたいぐらいの人には十分受け入れられるものだ。YouTubeのコメント欄には「改革」を支持する人たちの激しい既得権益・既成政党批判はあるものの、聴衆にはそこまでの熱気は感じられずない。維新は「(改革を邪魔する)敵を認定して攻撃するポピュリズム手法でのし上がる政党」から「大阪ナショナリズムに依拠した、新自由主義改革を掲げる地域政党」になりつつあると、彼らの演説を見て感じた。
維新は「大阪ナショナリズム」に依拠しているから、国政では大きな勝利を得ることはまずないかもしれない(それでも繰り返すけれど、警戒しないといけない)が、大阪・関西で今後も強い勢力を保ち続けるだろう。他の政党も「大阪ナショナリズム」そのものを否定することは、確実に支持を失うことにつながるので、ここに切り込むことは難しい。ただし維新が掲げる「大阪都構想」も、あわよくば東京に並ぶ地位を築こうという「大阪ナショナリズム」をくすぐり、それに依拠する政策なので、それに反する結果がでると市民が判断すれば、住民投票で否決される。そこで維新は「(都構想を実行しても)町並みやコミュニティは残る」と言わざるを得ないのだ。
あとYouTube演説を聞く限り、維新は大阪ナショナリズムに依拠しながらも、高齢者福祉や教育無償化という面で、ほぼ全ての世代に配慮した政策を内実はともかく掲げていることは分かる。彼らが言う財源は「身を切る改革」なのだが、それで思いっきりお金が捻出されるわけではない。ところで「維新改革」のおかげで税収が上がったわけではないので、これらを本当に実現する、あるいはしているとすれば、彼らは実は「緊縮をさけぶ政党」ではなく、「薔薇マークキャンペーン」が言う様な「ケインズ政策をこっそりやっている政党」なのではないだろうか?とも思った。このへんは事実を積み重ねて粘り強く批判を続けなければならないのだが、維新が「緊縮政策」を採っているという批判も、簡単には受け入れられないと感じた。
いずれにしても、敵を設定してデマやフェイクで大衆を扇動し、支持を得ている…という古い維新感は捨て、もういちど起こっていることを素直に見直して戦略を練り、地道な運動をしなければ維新には勝てないだろう。一方で維新は安倍改憲…自衛隊を憲法に位置付けるという…をはっきり支持し、それを後押しすると演説の中でもはっきり打ち出している。「大阪ナショナリズム」や福祉政策が支持されているからと言っても、このへんの批判もあいまいにしてはいけない。
戦線を立て直し、維新と安部はゴミ箱へ!
| 固定リンク
「経済・政治・国際」カテゴリの記事
- けんじと太郎でタヌキを追い出せ!(2020.06.18)
- 不正を防ぐために必要な人にお金が渡らないことはあってはならない(2020.05.22)
- 公共の場を閉鎖するばかりが能じゃない!(2020.04.09)
- 辺野古、護岸工事が打ち切られる⁉(2020.04.05)
- 「れいわ現象」の正体(その3)…「新選組」はどうなるか?(2020.03.30)
「かくめいのための理論」カテゴリの記事
- 設計変更を許すな!奥間政則さんの学習会(2020.06.29)
- けんじと太郎でタヌキを追い出せ!(2020.06.18)
- BLACK LIVES MATTER”よりも”大切なこと(2020.06.14)
- コロナ禍での社会ヘゲモニーを握ろう!(2020.05.15)
- 憲法1条を守れば天皇制はなくなる?(2020.05.05)
コメント