« 「資本逃避阻止政策」の必要性 | トップページ | 「キングダム」で解く中国大陸の謎(その2) »

『キングダム』で解く中国大陸の謎(その1)

 始皇帝 中華統一の思想 『キングダム』で解く中国大陸の謎(渡邉義浩 集英社新書 2019年四月)を読んでみた。「キングダム」というのは週刊ヤングジャンプで2006年から連載されている原泰久氏の漫画であり、中国の春秋戦国時代末期が舞台となっている。主人公の武人、信(実在の秦の大将軍、李信がモデルとされている)が、後の秦の始皇帝となる王、政とともに活躍する物語で、秦の中国統一過程が描かれてい_0001_11 る(連載中なので当然、統一はまだ先だ)人気があるのでTVアニメや実写化もされている作品だ。本書はこれを紐解く形で、なぜ中国が統一されているのか?ということを説くものだ。
 私は中国に行ったことはないが、広大な中国は実に多様であるそうな。住んでいる人の体格や容貌も、気候も、文化風習も違い、言語も違うそうだ。中国はヨーロッパのように、いくつも国があってもおかしくない…そんな地域なのに、秦が統一してから魏晋南北朝の370年間、五代十国の54年を除けば、基本的に統一された状態にある。これは歴史をみても非常に大変なことで、例えばローマ帝国は崩壊後、2度と再興しなかったし、インド半島を大部分平定したマウリヤ朝(B.C。317年~B.C.180年)も、その分裂後インドの統一は近代まで成し遂げられなかったのである。広大で多様な中国がずっと統一されているその淵源は、初の統一帝国・秦にあると本書では主張している。

 ではなぜ秦が中国を統一することが出来たか?それを見る前に、統一される前の中国の状況をみてみよう…古代中国社会は、宗族…父方の血縁によって結びついた集団で、共通の祖先を祀り、ともに生活を行う(「宗族」自体は中国社会に今も残っている)を単位として農耕を行っていた。生産力が低いので宗族でまとまらないと農作業なんかが出来ない。そんな宗族を「入れ子」にしたような支配体制、筆者は「マトリョーショカ型のピラミッド構造」と呼んでいる「氏族性社会」が古代王朝「周」の支配である。ちなみに周はある一定のエリアを面的に支配していたわけではなく、邑(ゆう)という城壁で囲まれた「都市国家」を支配していただけである。邑のような点どうしが結びついていたのが、殷・周王朝であり、このような国家形態を「邑制国家」と呼ぶ。邑の外は基本的に支配が及ばず、王と関係なく暮らす人びとがいたわけだ。 _00012
 周王が直接治めていたのは鎬京(こうけい)という特定の邑のみで、それ以外の邑は「諸侯」が統治する。周王は諸侯を各国の「君主」としてそれぞれの領土の自治を認める一方、一定の税を周に送り、有事には軍隊を引き連れて周王朝を守ることを求めた…これが古代中国の「封建制」だ。ただし諸侯をそのままにしておけば自立してしまう…そこで「宗族」の関係を利用する。具体的には周王が自分の氏族の娘たちを諸侯に嫁がせ、血縁関係になるのである。また各諸侯も自分の国の重臣に対して、自分の一族の娘を嫁がせる、諸侯をトップとする宗族を形成していた。古代中国は、君主が一元的にある地域を支配できていたわけではない。君主は諸侯に、諸侯はさらに下の豪族・有力者に支配を「丸投げ」していた…これが「マトリョーショカ型のピラミッド構造」と呼ばれる「氏族制社会」である。そんな「国家群」が、中原とよばれる黄河文明の中心地、さらには南方の揚子江文明の中心地までなんとなく広がっていたのが古代中国である。
(図はp180にあるもの…中国が統一されていないのは、紀元220年からの魏晋南北朝時代と、907年から960年の五代十国時代のみ…どちらも白抜き)

続く

 

 

|

« 「資本逃避阻止政策」の必要性 | トップページ | 「キングダム」で解く中国大陸の謎(その2) »

学問・資格」カテゴリの記事

書籍・雑誌」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




« 「資本逃避阻止政策」の必要性 | トップページ | 「キングダム」で解く中国大陸の謎(その2) »