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「キングダム」で解く中国大陸の謎(その7 番外編)

 さて6回にわたって「始皇帝 中華統一の思想『キングダム』で解く中国大陸の謎」(渡邉義浩 集英社新書 2019年4月)をみてきたが、要するに中国が「統一」されているのは、秦が法家の思想で富国強兵を行うことで氏族制度が解体されたのち、儒家の思想と法家の思想をドッキングさせた漢帝国の体制が中国人にマッチしていたので、後の王朝もそれをモデルに国家体制をつくったため…ということになる。

 ただそれだと、思想、考え方というものが上部構造(統一国家)を規定しているということになって、マルクス主義的なものの見方としては面白くない。
 著者は「銃・病原菌・鉄」の作者である進化生物学者、生物地理学者のジャレド・ダイアモンドを始めとする多くの人が、中国が統一されているのは自然環境にある、最初に統一王国が生まれた中原には山脈もなく、広大な平野が広がり、黄河や長江といった大河が広がっている…東西南北の交易が盛んで軍隊の移動も容易だったからだという考え方を紹介した後、これを否定している。
 なぜなら統一中国の領域は決して平らなところだけではないからだ。中原においてすら山がちな地形も多く、また過去に中国を統一した王朝もことごとく、中原以外の山岳地帯も含めたエリアも領域におさめているからだ。
 そうすると、中国統一を支えた「下部構造」とは、まさに東西南北の交易…それを可能にする生産力…でなないだろうか?

 著者は本書に「戦国時代の『グローバル経済』」というコラム欄を設け、戦国時代に商業が発展した旨を記述している。
 戦国時代に入ると、各国とも国内で生産する物品や他国からの流入品に課税し、財政の強化を図った。戦乱の世は技術革新を促し、経済活動を活発にしていく。斉の臨淄、趙の邯鄲、楚の郢、秦の咸陽などが経済の中心地として栄えていった。
 また、戦国時代には国を越えて投機や遠距離貿易を行う大商人、現代でいえば「グローバル企業」も登場した。彼らの大規模投機にって穀物価格は乱高下を繰り返し、庶民が苦しめられる一方、市場を巧みに操る者が巨万の富を得ていく。実際、孔子の弟子のひとりが、学問の傍らで投機により富を蓄えている。一説によると、定職を持たず諸国を巡っていた時代の孔子を、その弟子が経済的に支えていたという。(中略)
 大商人たちは通貨の違いや国境の壁を、商業を妨げる障害と考えるようになっていく。グローバル企業が国家を経済活動の障壁と考えるのは、今も昔も変わらない。七国統一の気運は、経済の側面からも高まりつつあったのである。(p82~83)
 で、一旦統一すると、発展した商業はその統一中国を基盤にますます発展するし、統一を前提としたルールで商売を続けるわけだから、商業=経済がその後も中国が統一を続けることを要求することになる。
 はなしはこれで終わらない…ではなぜローマ帝国は再び統一せず、ヨーロッパは分裂したままなのか?
 実は、ヨーロッパなんてすごく生産力が低かったのである。
 ローマが統一して「全ての道はローマに通ず」状態になっても、ローマ帝国の軍事力で、例えば金銀なんかを大量にローマが蓄え、それで地中海世界、ヨーロッパ中の品物を手に入れようとしても…肝心の「商品」、すなわち交換するモノが生産できなければ、商業は発展しない…結局、各地で自活していく生き方のヨーロッパ型封建社会に分裂してしまうわけだ。
 中国ではそうならなかった…中国の生産力でもって商品、交換するモノがふんだんに生産できた。だから商業も下火にならず、統一が続いたというわけである。

 おまけ…中国も氏族制度が解体し、家族単位の独立自営農民ができてその上に皇帝・官僚機構が君臨するという単純な形態をず~っと続けてきたわけではない。実際、漢帝国が衰退して、みんな大好き三国志の時代になるのは、一旦成立した自営農民も時代が進むにつれ貧富の格差が生まれ、結局豪農なんかに統合されていく過程が出来たからである。そうして勢力をつけた連中が、地域の有力者になっていく。その親玉が、曹操や劉備といった三国志に登場する人物になっていくのである。
 要するにまた農民層の分解が、発展した生産力の下で起こったのだ…これにどう折り合いをつけるのかで「混乱」したのが、漢の後の魏晋南北朝370年間の分裂時代だったのだろう。そして中国は再び「統一」し、隋・唐の時代になる。分裂の原因となる地域の有力者を取り込むのに、唐が用意したのが「科挙」である…試験によって官僚を登用するのだ…といった「質の転換」が隋・唐帝国で行われているハズなのだが、その辺は著者の渡邉氏は本書では触れていない。まぁ、やると本が分厚くなるし、「キングダム」の時代から外れるからね。なお渡邉氏の専門は古代中国思想史で、「三国志 演義から正史、そして史実へ」(中公新書)という本も出しているようだから、その辺を読むと中国が古代から中世へどう変わっていったか理解できるのカモしれない。

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