キングダムで解く中国大陸の謎(その6)
中国が統一され続けている理由を筆者は、王朝が交代し新国家を樹立してもても、漢の時代に成立した「古典中国モデル」が参照され続けた結果であるとしている。では「古典中国モデル」のイデオロギーとは何か?見てみよう。
古典中国モデルの特徴は、①大一統、②華夷秩序③天子 であるそうな。
① 大一統とは、中国は分裂していてはならず、統一されていなければならないという意識のこと。これは「安全保障」上の意識でもあって、要するに分裂していては異民族が中華に攻めてきた時に打ち払えない…だから統一している必要があるということだ。漢帝国も当初の「郡国制」で半分封建制が残っていた時期に匈奴に攻め込まれ、屈辱的な講和を行っている。その後、郡国制を解消して中央集権国家が出来た段階で大々的に匈奴を「討伐」している。分裂していれば異民族が攻め込んでくるという「恐怖」に裏打ちされたものと言えよう。(ちなみに辛亥革命後、様々な「軍閥」が割拠している時期にも日帝の侵略を受けている)
② 華夷秩序とは、大一統の範囲を決めるもので、具体的には儒教・漢字文化を持つものを「中華」とし、持たないものを「夷狄(いてき)」として、中華を上位に置く世界観のこと。漢字を使い儒教的価値観を持っているならば、異民族であっても「中華」になれるので、後に漢民族は異民族による支配を受け入れる根拠にもなるものである。
③天子とは、周王朝における王の権威付けのために現れる概念で、「天」という抽象的な存在でもって「王は『天』から地上の支配を認められた、天の子」という物語である。これを漢代の儒家が皇帝の権威づけのために、皇帝号と天子号をドッキングさせたのだ。皇帝の力の源泉は、人間を越えた存在「天」にあるとしたのである。
こうして、漢の初代皇帝・劉邦は、後から天命が降った「天子」だったことにされた。皇帝が死んだら、皇帝の嫡長子が天に即位を報告し、承認されることで、新皇帝も天子となる。そう考えることで、本来、儒家とは無関係だった皇帝号を、天子号と結びつけた。(中略)
武帝の時代には、儒家の董仲舒が「皇帝=天子の支配を、天が正統化する論理」をさらに精緻なものにした。天は徳のある人物に対して天命を与えて天子とするが、天子が悪政を行ったときは災害を起こして戒める、というのがその説である。(天人相関説)
つまり皇帝が「権威を持った天子」であるためには、儒家的価値観に基づいた政治を行わなければならないということだ。皇帝に「仁政」の枠をはめたのである。(中略)
おそらく漢の初期、支配者層は困っていたのではないだろうか。中央集権型の統治を行わなければ異民族に侵略されてしまうが、法家を公式イデオロギーに採用しても長続きしないことがわかっている。そこで、一時的に「ゆるやかな法家・道家」である黄老思想を採用したが、これは統治について揺るぎない指針を与えるものではない。
そうしたときに、昔からある制度や慣習を認めながら、統一と中央集権を肯定する論理を飲みこんだ儒家が登場する。それがあまりにも中国人にフィットしていたために、漢は長期政権になったのである。(p191~192)
で、漢が約400年続いた後、みんな大好き三国志の時代をへて、一事晋が中国を統一するも南北朝時代という分裂時代が280年続く。南北朝の末期には北周という、周にならった封建制の国家もできるのだが、儒教の「理想」国家は現実の国家の規範にはならず、中央集権型の隋帝国が統一を行う。ただ隋は鮮卑と漢民族が融合した異民族系国家であったため、仏教を国教とした(だから倭国は隋に使いをやって仏教を学んだのである)が中国人には受け入れられず、30年足らずで滅びる。その後を引き継いだ唐帝国が、大一統・華夷秩序・天子を「古典」として復活させたのである。唐帝国は300年近く続き、広大な領土と絶大な影響力を及ぼしたのはご存じのとおりである。で、五代十国の54年の分裂をへて、宋が統一…「古典中国モデル」採用…この繰り返しとなる。(元、モンゴル帝国は異民族による世界帝国であり、別の統治手法を用いたのだが、その代わり元は中国人からほとんど徴税することが出来ず、財政基盤は塩の専売であったそうな。)
筆者は「中国人は国が混乱し新たな政体を打ち立てる必要に迫られたときにも、参照すべきモデルを持っていた。たとえなにか問題が起きても、自分たちの作りだした儒教文化に立ち戻れば打開できる、そのような絶対的な信頼があったのである。」(p195)と述べている。そして現代中国、中国共産党もかつて儒教を旧い中国の象徴と見なして攻撃したものの、1980年代からゆるやかな見直しが始まり、積極的に儒教研究者に資金を援助し、中国各地に孔子廟を建て、海外には「孔子学院」という教育機関を輸出している状況を「西洋とは異なる中国独自の思想体系として、かつての儒家と同じように、ときの政府の正統化を願っているのかもしれない。」(p197)と説く。そして「中国は古代の統一帝国がずっと続いていた不思議な国だと述べたが、本質的には現代でも変わっていないのかもしれない。まさしく稀有な国だとう思いを、これまでにも増して、私は強めている」(p198)と結んでいる。
結論が出た…ので、(その7 番外編)に続く
| 固定リンク
「学問・資格」カテゴリの記事
- 放射能被害は、見えにくい(2020.01.24)
- 「神武」はどこから来たか?(2020.01.18)
- 2000年にわたる一つの王朝なんかないぞ!(2020.01.15)
- もっと放射能を恐れよう!(2019.12.20)
- 辺野古ではまともなコンクリートを打つ気がない!(2019.11.27)
「書籍・雑誌」カテゴリの記事
- 「れいわ現象」の正体(その3)…「新選組」はどうなるか?(2020.03.30)
- 「れいわ現象」の正体(その2)(2020.03.24)
- 「れいわ現象」の正体(その1)(2020.03.22)
- 放射能被害は、見えにくい(2020.01.24)
- 「検証温暖化」を献本してもらいました(2019.07.17)
コメント