「れいわ現象」の正体(その1)
山本太郎氏が昨年春に立ち上げた新党「新選組」が参議院選挙で躍進したことは記憶に新しいが、朝日新聞社記者、牧内昌平氏が「新選組」の支持者等を取材して著したのが「「れいわ現象」の正体」(ポプラ新書 2019年12月)である。牧内氏は経済部記者として過労死やパワハラなどの労働問題に取り組んでおり、「過労死」(ポプラ社)という著書もある。本書は、当初山本太郎氏を全然評価していなかった記者が、つれあいの薦めで山本太郎氏の演説をYoutubeで観た後、「新選組」支持者の取材を始めた。支持者の熱気と選挙報道の在り方に揺れ動く1記者の報告として読んでも面白い。新書なので内容は決して多くはないが、考えるところは多いと思うので、山本太郎「新選組」を支持する人も、懐疑的な人も、大嫌いな人にも一読をお勧めしたい。 非正規職を転々として貧困に苦しむロスジェネ世代や、シングルマザーが乏しい所持金から千円、二千円を「新選組」に寄付している。「生きててくれよ!死にたくなるような世の中やめたいんですよ!」「あなたの生活が苦しいのをあなたのせいにされるなんて、ムチャクチャな話だと思いません?どうしてこんな状態になるかって?あなたたちががんばらなかったからっていう自己責任にされているだけで、答え明らかじゃないか。国がやるべき投資をしてこなかったんだ。」…貧困に苦しむ人びとのみならず、様々な「生きづらさ」を抱えている人、本人や家族、知り合いが障がいを抱えている、子どもが引きこもっている、LGBT、元「ネトウヨ」の共産党員、かつて部下をリストラしたエリート会社員、アベ政治に憤り日本の右傾化を憂う人びと…に対し「あなたはあなたのままでよい」と肯定してくれる。みんな生きていていいのだ!そうゆうメッセージがダイレクトに伝わるのが、山本太郎氏の演説であり、掲げた政策であり、擁立した候補者(様々な個別問題に関する当事者、プロフェッショナル)なのだ…それが「新選組」躍進のカギであると、支持者へのインタビューからはそのように感じた。ただ貧困や労働問題に詳しい牧内記者が「新選組」の支持者をインタビューしてまとめただけであれば、「生きづらさ」を抱えた人が山本太郎氏やその政策を支持している…だけで終わってしまうが、本書では専門家への適切なインタビューが成されており、それが「新選組」躍進について重要なことを示唆してくれている。
「新・日本の階級社会」(講談社現代新書 2018年1月)を著した社会学者・橋本健二氏は「新選組」はアンダークラスが支持する政党になるのではないかと期待し、「左派ポピュリズムが日本に根付くことは悪いことではないと、わたしは思います。実際に政権を担うだけの政策体系はなかったとしても。広く貧困の大衆の支持を集める政党ができれば、それで政策のバランスはとれます。こうした政党には十分存在意義がある」「哲学者のジョン・ロールズが書いた『正義論』で一番のポイントは『自尊』(セルフリスペクト)です。これがすべての人に保障されるべき最も重要な基本財であると、ロールズは書いています。そのことを正面から言う政治家はあんまりいませんでしたよね。」(p105~106)と評価している。これまでは「基本的人権」があるから、生活保護水準は引き上げ、年金は確保する必要があると語られてきたのだが、それでは通じない人びとがいる。その代わりに「セルフリスペクト」を声高にさけばないといけなくなった…それをやっているのが山本太郎「新選組」というわけだ。(つづく)
| 固定リンク
「書籍・雑誌」カテゴリの記事
- 「れいわ現象」の正体(その3)…「新選組」はどうなるか?(2020.03.30)
- 「れいわ現象」の正体(その2)(2020.03.24)
- 「れいわ現象」の正体(その1)(2020.03.22)
- 放射能被害は、見えにくい(2020.01.24)
- 「検証温暖化」を献本してもらいました(2019.07.17)
「経済・政治・国際」カテゴリの記事
- けんじと太郎でタヌキを追い出せ!(2020.06.18)
- 不正を防ぐために必要な人にお金が渡らないことはあってはならない(2020.05.22)
- 公共の場を閉鎖するばかりが能じゃない!(2020.04.09)
- 辺野古、護岸工事が打ち切られる⁉(2020.04.05)
- 「れいわ現象」の正体(その3)…「新選組」はどうなるか?(2020.03.30)
「かくめいのための理論」カテゴリの記事
- 設計変更を許すな!奥間政則さんの学習会(2020.06.29)
- けんじと太郎でタヌキを追い出せ!(2020.06.18)
- BLACK LIVES MATTER”よりも”大切なこと(2020.06.14)
- コロナ禍での社会ヘゲモニーを握ろう!(2020.05.15)
- 憲法1条を守れば天皇制はなくなる?(2020.05.05)
コメント